美容整形が広がるイギリス社会──美の追求、性別意識、そしてリスクのはざまで

はじめに:美容整形という選択肢

近年、イギリスにおいて美容整形を受ける人の数は年々増加傾向にあります。手術を通じて「理想の自分」に近づこうとするこの選択肢は、もはやセレブリティや一部の富裕層だけのものではなくなりつつあります。外見に対する意識が高まる中で、美容整形は自己表現の一形態として定着しつつあり、特に女性を中心にその人気は広がっています。しかし、同時に男性の関心も急増しており、美容整形はもはや「女性だけのもの」ではありません。

この記事では、イギリスにおける美容整形の現状と性別による傾向、人気の施術とその背景、費用、リスク、さらには「なぜイギリス人は美容整形を選ぶのか」という根本的な問いに迫ります。


性別と美容整形:圧倒的多数は女性、だが男性の急増も見逃せない

2022年のデータによると、美容整形を受けたイギリス人の93%が女性であり、男性はわずか7%にとどまります。この数字は一見、女性のみに偏った現象のように見えますが、実は男性の美容整形も急増しており、前年比で118%という大幅な伸びを記録しました。

さらに興味深いのは、実際に整形を「検討したことがある」と答えた人の割合です。調査では、男性の22%、女性の19%が顔の美容整形を検討した経験があると回答しており、意識の面では男女間に大きな差は見られません。むしろ、手術に踏み切るかどうかのハードルが、男女で異なるだけかもしれません。

この差は、社会的な許容度や性別規範の影響を示唆しています。女性にとって美容整形は比較的「受け入れられている」行動ですが、男性にとってはまだまだ偏見やステレオタイプと戦う側面が強く、検討はしても実行には移しづらい環境にあるのです。


人気の施術:性別による違いと共通点

女性に人気の手術

イギリスで最も実施されている女性向けの施術は、以下のとおりです(2022年):

  • 豊胸手術(6,640件、前年比66%増)
  • 乳房縮小術(5,270件、前年比120%増)
  • 腹部形成術(3,241件、前年比130%増)
  • 脂肪吸引(2,669件、前年比134%増)
  • 眼瞼形成術(前年比70%増)

特筆すべきは、すべての施術において前年比で大幅な増加が見られることです。特に乳房縮小術や腹部形成術は「減らす・整える」という目的の手術であり、「美しさ」だけでなく「快適さ」や「自分らしさ」を求める声が反映されています。

男性に人気の手術

男性が選ぶ施術にも特有の傾向があります:

  • 鼻形成術(388件)
  • 男性胸部縮小術(前年比158%増)
  • 眼瞼形成術(前年比105%増)
  • 脂肪吸引(前年比150%増)
  • 耳介形成術(前年比72%増)

男性の場合、「鼻」「胸」「目元」「耳」といった、第一印象に直結する部位の整形が主流です。これは、近年の男性ファッション誌やSNSでの「ルックス重視」の風潮が背景にあると考えられます。イギリスでも“Instagram face”と呼ばれる顔の理想化傾向が若者を中心に定着しつつあり、男性もその影響を受けています。


なぜイギリス人は美容整形をするのか?──その背景と動機

1. SNSと「比較文化」

InstagramやTikTokの普及により、「理想的な外見像」が日常的に流れ込み、人々は知らず知らずのうちに他者と自分を比較するようになっています。イギリスにおいてもこれは顕著で、若年層を中心に「美しくなければ価値がない」といったプレッシャーが増加しています。

2. 芸能人文化とインフルエンサーの影響

リアリティ番組『Love Island』に出演するような芸能人や、SNSインフルエンサーたちの中には美容整形を公言する人物も少なくありません。彼らの整った容姿が羨望の的となり、整形への心理的ハードルを下げています。

3. 自己肯定感の向上と精神的健康

多くの人が美容整形を選ぶ背景には、見た目だけではなく「自分自身に対する満足感の向上」があります。特に長年外見コンプレックスを抱えてきた人にとっては、整形が精神的な解放となることもあります。イギリスではメンタルヘルスへの関心も高まっており、整形がポジティブなライフチェンジと捉えられるケースも増えています。


美容整形の費用:理想の外見にはいくらかかるのか?

美容整形の費用は決して安くはありません。イギリス国内の主な施術の費用相場は以下の通りです:

  • 豊胸手術:約£7,990〜£10,500
  • 乳房縮小術:約£11,990
  • 腹部形成術:約£6,990(ミニの場合)
  • 脂肪吸引:約£4,000〜£8,500
  • フェイスリフト:約£14,180〜£28,000
  • 鼻形成術:約£3,000〜£4,000
  • 眼瞼形成術:約£2,200〜£4,000

このような高額な費用がかかるため、海外(特にトルコやチェコ)でより安価に手術を受けるケースも増えています。しかし、その選択には別のリスクが伴います。


リスクと失敗の現実:海外手術と未認可クリニックの落とし穴

2022年、海外での美容整形後にイギリスに帰国してNHSの治療を受けた患者数が大幅に増加し、合併症の件数は前年比で35%増加しました。

特に「ブラジリアン・バット・リフト(BBL)」は死亡率が最も高いとされ、政府は海外での施術に対して警告を出しています。また、イギリス国内でも非医療従事者が施術を行うケースが問題視されており、感染症や術後トラブルが発生するリスクが高まっています。

患者側が信頼できる情報や医療機関を見極めることが、何よりも重要です。


おわりに:外見だけがすべてではないが、「自分を好きになる手段」としての整形

美容整形は単なる「美の追求」ではなく、自己肯定感や生きやすさに直結する選択肢として受け入れられつつあります。特にイギリス社会では、「自分らしくある」ことが尊重される傾向が強まっており、美容整形もその文脈の中に位置づけられています。

しかし、その一方で、SNSやメディアによる外見偏重の圧力、施術の高額さ、リスク、そして身体的負担といった課題も無視できません。美容整形は万能な解決策ではなく、慎重に選ぶべき選択肢です。

外見を変えることで人生が好転するケースがある一方で、期待とのギャップに悩む人もいます。整形を選ぶ際には、十分なリサーチと冷静な自己判断が求められます。

美容整形は、誰かの期待に応えるためのものではなく、自分自身をより好きになるための一歩であるべきなのです。

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