風邪でも病院に行く日本、まず家で休むイギリス――どちらがいい?

イギリスもこれから寒さが増し、風邪やインフルエンザが気になる季節に入ります。喉がイガイガする、鼻水が出る、体がだるい。そんなとき、日本とイギリスでは、医療との付き合い方の違いを感じることがあります。

「風邪くらいなら家で寝て治す」というイギリスと、「ひどくなる前に、念のため診てもらおう」という日本。もちろん、どちらの国にもさまざまな人がいます。「英国人はほとんど受診しない」「日本人は少しの不調で必ず受診する」と、一括りにはできません。

それでも、この二つの考え方には、比較する価値があります。どちらが私たちの健康にとってよいのでしょうか。

公的な医療情報を踏まえると、普段健康な大人の軽い風邪では「まず休む」という判断に合理性があります。一方、重症化する可能性がある人や、症状が強い人には「早めに相談する」という姿勢が大切です。 NHS

英国のNHSは、風邪は多くの場合、GP(かかりつけ医)を受診せずに自宅で対処でき、通常は1~2週間ほどで改善し始めると案内しています。喉の痛みも、多くは1週間以内に自然に改善します。十分に休み、水分を取り、必要に応じて症状を和らげる。この考え方には医学的な根拠があります。NHS

また、英国で医師を受診しないことが、必ずしも誰にも相談しないことを意味するわけではありません。薬剤師は、風邪や咳、喉の痛みについて助言し、必要ならGPなどへの相談を勧めます。イングランドには、条件を満たす喉の痛みなどに対し、薬局で処方薬を提供できる「Pharmacy First」という仕組みもあります。NHS

軽い症状の段階で薬剤師に相談し、自宅で様子を見るという選択肢があることは、英国の医療を考えるうえで見落とせない点です。

一方、日本のように「念のため医師に相談しよう」と考えることにも、安心につながる利点があります。日本では、患者が基本的に自分で医療機関を選べる仕組みが採られています。喉の痛みがいつもの風邪と違う、症状が長引く、持病がある。そうしたとき、医師の診察を受けられることには価値があります。mhlw.go.jp

ただし、早めに受診したからといって、すべての風邪が早く治るわけではありません。

特に見直したいのが、「風邪をひいたら抗生物質をもらう」という期待です。通常の風邪はウイルスが原因で、抗菌薬は効きません。厚生労働省の2026年公表の手引きも、風邪に対して抗菌薬を投与しないことを推奨しています。不要な抗菌薬には副作用の可能性もあります。これは、英国だけの考え方ではありません。mhlw.go.jp

受診しても薬が出ない場合がありますが、それだけで診察が不十分だったとはいえません。診察の価値には、薬を処方することに加え、治療が必要な病気かどうかを判断し、その後の経過をどう見るかを説明することも含まれます。

ここで、風邪とインフルエンザを同じように扱わないことも大切です。

インフルエンザには抗ウイルス薬があり、厚生労働省は、適切な時期、一般に発症から48時間以内に治療を始めると、発熱期間が通常1~2日短くなると説明しています。ただし、すべての患者に薬が必要なわけではなく、使用は医師が病状などを踏まえて判断します。mhlw.go.jp

英国でも、インフルエンザを一律に放置する方針ではありません。UKHSA(英国健康安全保障庁)の指針では、普段健康な人の重症ではないインフルエンザには通常、抗ウイルス薬を使わず、重症化リスクのある人や重症患者には治療を勧めています。治療が必要な場合は早期の開始が重要で、重症例では48時間を過ぎても治療が役立つ場合があります。GOV.UK

つまり、「英国ではインフルエンザでも受診しないらしい」という印象だけを頼りに、自分や家族の症状を判断するのは適切ではありません。

NHSが医療機関への相談を勧める目安には、次のようなものがあります。

  • 風邪と思われる症状でも、高い熱が3日を超えて続く、悪化する、10日たっても改善しない。
  • インフルエンザの症状があり、65歳以上、妊娠中、持病がある、免疫機能が低下している。
  • 息苦しさがある、非常に具合が悪い、脱水が疑われる。
  • 子どもの症状が心配である。NHS

こうした場合は、日数の目安まで待つ必要はありません。特に、強い呼吸困難や突然の胸痛、喉の症状で飲み込めない状態などは緊急の対応が必要です。英国では緊急時に999、イングランドでは急ぎの相談にGPやNHS 111を利用できます。NHS

英国の「まず自宅で休む」という考え方を評価するなら、必要になったときに相談できることも含めて考えるべきでしょう。予約が取れず、不安を抱えたまま受診を諦めているのであれば、それを理想的なセルフケアとは呼べません。

日本の「早めに診てもらう」という考え方も、受診回数や薬の数が増えるほどよいという意味ではありません。必要な診察を受け、不要な薬は使わず、安心して休養できることが望ましいはずです。

そして、両国に共通して大切なのは、体調を崩したときに無理をしないことです。NHSも厚生労働省も、発熱や体調不良があるときの外出を控え、休養を取るよう案内しています。受診するかどうかを考えるのと同時に、仕事や学校を休める環境も必要です。NHS

この冬、英国から学びたいのは、軽い不調で慌てずに体を休める姿勢です。日本から大切にしたいのは、不安や異変を感じたときに専門家へ相談する姿勢です。軽い症状なら休み、悪化や重症化のリスクがあれば早めに相談する。その判断を支える医療こそ、私たちに必要なのではないでしょうか。

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