【特集】ルーシー・レットビー事件とは何だったのか?

英国を震撼させた看護師による連続乳児殺害の全貌


■ はじめに

2015年から2016年にかけて、イギリス中部チェスターにある病院で不審な乳児死亡が相次ぎました。その中心にいたのが、新生児集中治療室に勤務していた看護師、ルーシー・レットビー。本記事では、事件の発覚から裁判、再審請求に至るまでの経緯をわかりやすくまとめます。


■ 第1章:事件の発端 ~不審な死の連鎖~

ルーシー・レットビーは2012年からチェスター伯爵夫人病院で勤務を開始。特に重症の新生児をケアする集中治療ユニットで働いていました。

2015年以降、彼女が勤務するユニットで乳児の死亡率が異常に高まる現象が発生。通常の2倍以上の頻度で乳児が急死したり、深刻な容態悪化を起こしたりしていました。

当初は「医療事故」や「偶発的な病状悪化」とされていましたが、ある医師が複数の事例に共通してレットビーが関与していたことに気づき、病院上層部に警告を提出。しかしこの警告は黙殺され、逆に医師が配置換えになるという逆転現象すら起きていたのです。


■ 第2章:捜査と逮捕 ~ついに明らかになる異常性~

2018年、警察が動き出します。レットビーの勤務記録や病院のモニターデータ、投薬履歴などを精査した結果、彼女が担当していたケースに不自然なインスリン投与空気注入による死亡が多数確認されました。

2018年と2019年に2度逮捕され、最終的に2020年に7件の殺人罪と10件以上の殺人未遂罪で起訴されました。彼女の自宅からは、「私はやった。私は悪い人間。私は地獄に行く」と書かれたメモも発見されています。


■ 第3章:裁判と有罪判決 ~揺れる医療と司法の境界~

裁判は2022年から始まり、約10か月にわたる審理の末、2023年8月に評決が下されます。

陪審はルーシー・レットビーを、7人の新生児を殺害、6人に対する殺人未遂の罪で有罪と判断しました。

裁判官は「これは英国史上もっとも悪質な医療従事者による犯罪」とし、仮釈放のない終身刑、いわゆる“whole-life order”(生涯服役)を言い渡しました。これは極めて稀な量刑で、重大凶悪犯罪者のみに適用されるものです。


■ 第4章:再審請求と医学的疑義 ~新たな波紋~

2024年に入ってから、海外を含む14名の医療専門家チームが独自に調査を実施。彼らは「死因の中には自然死や医療処置ミスと明確に区別できないものが複数含まれている」と報告しました。

これにより、レットビーの弁護団は「重大な誤審の可能性がある」として、刑事事件再審査委員会(CCRC)に再審請求を提出しました。2025年現在、再審開始の可否についての審議が進行中です。


■ 第5章:病院の責任 ~組織の沈黙が招いた惨劇~

本件では、レットビー個人の責任だけでなく、病院側の対応の遅れ内部告発の無視も問題視されています。

2023年から2025年にかけて、病院の元幹部3人が逮捕され、病院組織自体が「重過失致死」で刑事責任を問われる可能性が出ています。

また、英国政府主導で「医療事故や内部告発の対応体制の見直し」「医療従事者の精神的健康へのサポート」など、制度改革の議論が始まっています。


■ 第6章:何が問われているのか?

この事件は単なる“連続殺人事件”ではなく、次のような問題を社会に突きつけています:

  • 医療従事者による犯罪の検知の難しさ
  • 組織の内部通報制度の脆弱さ
  • 医療ミスと故意犯罪の境界の曖昧さ
  • 裁判における医学的証拠の信頼性

■ 結語:再発を防ぐために

ルーシー・レットビー事件は、英国医療史において最大級の信頼失墜をもたらしました。そして今も、「彼女は本当に犯人だったのか?」「病院はなぜ止められなかったのか?」という疑問は尾を引き続けています。

裁判は一応の決着を見ましたが、真相のすべてが明らかになったとは限りません。この事件を風化させず、医療と司法、組織運営のあり方を根本から見直す契機にしていく必要があるでしょう。

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