
イギリスは緑豊かで野生動物も多く生息する国。そのため、日常的に車を運転していると、思わぬ場面で野生動物が道路に飛び出してくることがあります。特に郊外や森の近くでは、シカ、キツネ、アナグマなどの野生動物が道路に出てくることが珍しくありません。
この記事では、「もし野生動物を轢いてしまったらどうするべきか?」というテーマを、日本人にも分かりやすく、法律・保険・現場での対応・事故後の手続き・予防策まで幅広く解説します。
第1章:事故発生時の初動対応 ― 自分と他者、そして動物の安全を守るために
交通事故が発生した際、最も大切なのは「人命の安全」です。動物を轢いてしまったときも、まずは以下のステップで冷静に行動しましょう。
安全確保と状況確認
- 安全な場所に車を停車:可能であれば道路の端や路肩など、安全な場所に車を寄せます。
- ハザードランプを点灯:後続車に注意喚起を行い、二次事故を防止します。
- 負傷者の確認:運転者自身や同乗者が怪我をしていないか確認。負傷者がいる場合は、すぐに救急車(999または112)を呼びます。
動物の状態確認
動物がまだ生きている場合、感情的に「助けなければ」と思うかもしれませんが、以下の点に注意してください。
- むやみに近づかない:負傷した動物は恐怖や痛みにより攻撃的になることがあり、非常に危険です。
- 通報する:イングランド・ウェールズではRSPCA(動物虐待防止協会)、スコットランドではSSPCA、北アイルランドではUSPCAに連絡します。状況に応じて警察(101)へも通報しましょう。
参考:RSPCA(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)
電話:0300 1234 999(24時間対応)
第2章:イギリスでの法的義務 ― 報告すべき動物とその理由
報告義務のある動物とは?
イギリスの「道路交通法(Road Traffic Act 1988)」では、以下の動物を轢いた場合は必ず警察への通報が義務付けられています。
- 犬
- 馬
- 牛
- 羊
- 豚
- 山羊
- ロバまたはラバ
これらは「飼育されている家畜」であり、事故が発生した場合には飼い主の責任問題や道路上の危険性が問われるため、法的な報告義務があります。
通報の方法:
→ 最寄りの警察(101)または緊急時は999番に通報。
野生動物を轢いた場合はどうする?
シカ、キツネ、アナグマ、ウサギなどの野生動物に関しては、法律上の通報義務はありません。ただし、以下の理由から通報が推奨されます。
- 道路に死骸が残ることで、他のドライバーの視界を妨げたり、タイヤがスリップする危険性がある。
- 事故の責任所在を明確にするため、警察に通報しておくと後のトラブルを防ぎやすい。
通報先:
→ 地元自治体またはハイウェイ部門、必要に応じて警察。
第3章:保険と修理費用 ― 加入している保険によって大きく異なるカバー範囲
英国の自動車保険の種類
イギリスで車を運転するには、いずれかの自動車保険に加入することが義務付けられています。主な種類は以下の3つです。
- Third Party Only(対人・対物賠償のみ)
→ 自分の車の損傷や自分の怪我は補償されません。 - Third Party, Fire and Theft(上記に加え火災・盗難補償)
→ 事故による損傷はやはり補償されません。 - Comprehensive Insurance(包括的保険)
→ 自分の車の損傷、動物との衝突も含めて補償されるのが一般的です。
野生動物との衝突による損傷をカバーしているかは、保険契約時に必ず確認しておくことが大切です。
修理費用の負担と賠償請求
- 包括的保険あり:保険適用で修理可能。ただし免責金額(エクセス)の支払いは必要。
- 保険未加入 or 範囲外:修理費用は自己負担となります。
- 家畜などの所有者が特定できる場合:飼い主に対して損害賠償を請求できるケースもあります。
第4章:保険請求の流れと注意点
事故後の連絡
事故発生後は、できるだけ早く保険会社に連絡し、以下の情報を伝えます。
- 事故の日時と場所
- 動物の種類と状況
- 車の損傷状況
- 写真や証拠
- 目撃者がいればその証言
保険会社によって対応は異なりますが、遅れると保険が無効になることもあるため、迅速な報告が求められます。
ノークレームボーナス(NCB)への影響
野生動物との衝突でも、「ドライバーが予防できたか否か」が焦点になります。そのため、多くのケースで「過失あり(at fault)」と判断され、ノークレームボーナス(保険料割引)がリセットされることがあります。
第5章:事故後に行うべきこと ― 証拠保存と安全対策
事故の直後は混乱してしまいがちですが、以下のことを実施することで後々の手続きがスムーズになります。
記録・証拠の収集
- 現場の写真(道路状況、車の損傷、動物の位置など)
- 動物の種類や状態
- 事故の時間・天候・周囲の交通量
- 目撃者の連絡先と証言
これらの情報は、保険請求の証拠としても、警察や自治体との連携にも役立ちます。
死骸の撤去依頼
動物の死骸が道路上に残っている場合は、地元のカウンシル(自治体)に連絡して撤去を依頼します。自治体によっては24時間対応の道路維持部門があります。
第6章:事故を未然に防ぐために ― 日常の運転習慣がカギ
野生動物との事故は完全には防げませんが、日頃の注意でそのリスクを大きく減らすことができます。
運転時の注意点
- スピードの抑制
特に夜間・早朝は動物の活動時間帯。速度を控えめにして走行することで、避ける時間を確保できます。 - 動物注意の標識を見逃さない
動物飛び出し注意の標識がある場所では、常に警戒を怠らないことが重要です。 - ハイビームとロービームの使い分け
遠くまで照らすためにはハイビームが有効ですが、対向車がいる場合はロービームに切り替えることを忘れずに。
まとめ:冷静な初動と正しい知識でトラブルを最小限に
イギリスでは、日本と比べて野生動物や家畜が道路に出てくる頻度が高く、思わぬ交通事故に巻き込まれるリスクがあります。事故が起きた際には、まずは人命優先、次に法律・保険・報告義務に則って適切に対処することが、ドライバーとしての責任です。
また、事故を未然に防ぐための運転習慣も欠かせません。この記事を参考に、イギリスでの運転をより安全なものにしてください。
コメント