
先日、ふと思い立ってオランダの首都アムステルダムに小旅行してまいりました。ここ数年、ロンドンで生活してきて食にはそれなりに慣れてきたつもりでしたが、今回アムステルダムで過ごした数日間で、ある種のカルチャーショックを受けたと言っても過言ではありません。それは、美術館でもなければ運河の景色でもなく、「レストランのレベルの違い」でした。
ヨーロッパ随一の観光都市・アムステルダムの魅力
アムステルダムといえば、言わずと知れたヨーロッパを代表する観光地。ゴッホ美術館やアムステルダム国立美術館といった世界的なアートギャラリーをはじめ、アニー・フランクの家、レンブラントの故居など、芸術と歴史が融合した街として知られています。街のいたるところに運河(カナル)が張り巡らされており、ボートで巡る小旅行は実に風情があり、まるで絵画の中に迷い込んだかのような気分にさせてくれます。
こうした観光的な魅力に加え、私が特に感心したのが「サービスのきめ細やかさ」でした。観光都市であるがゆえ、ホスピタリティのレベルが高いことはある程度予想していましたが、それを軽々と上回る丁寧さと心配りに、思わず感動する場面が何度もありました。
驚異的にレベルの高いアムステルダムのレストラン
そして何より驚かされたのが、アムステルダムの「レストラン文化の豊かさ」です。正直、食の面ではあまり期待していなかったのですが、これが良い意味で完全に裏切られました。
街の中心部はもちろん、少し離れた地区にあるレストランでも料理のクオリティは非常に高く、素材の味を活かしつつも丁寧に調理された品が多く見受けられました。フレンチ、イタリアン、モダンオランダ料理、ベジタリアンレストラン、さらにはアジア系のフュージョンまで、選択肢も非常に豊富。どこに入ってもハズレがない印象でした。
そして何よりも「脂っこくない」。これは本当に重要なポイントです。日本人としては、あまりにオイリーな料理は胃がもたれてしまいますが、アムステルダムの料理は非常にバランスが良く、油分も控えめ。素材の風味を活かす調理法が多く、胃にもたれないのに満足度が高いという、まさに理想的なダイニング体験でした。
比べてロンドン……雑すぎる、粗すぎる、そして高すぎる
一方で、帰国してから再びロンドンのレストランに足を運んだ瞬間、強烈な落差を感じずにはいられませんでした。ロンドンには確かにミシュラン星付きのレストランや世界的な有名シェフの店もありますが、日常的に行くような中〜上級価格帯のレストランとなると、途端に質が落ちます。
・料理のクオリティが日によって違う
同じ店でも、昨日食べた料理と今日の料理では味も見た目もまったく違う。明らかに火の入りすぎた肉、ベチャっとしたサラダ、固すぎるパン…。忙しい時間帯になると「作業」として皿が出てくるのが見え見えです。
・焦げた料理や作り置きが普通に出てくる
とある人気レストランでは、明らかに焦げたパスタが出され、それを指摘したら「これがうちのスタイルだ」と言い返される始末。客を客と思わない態度に愕然としました。
・価格に見合わない内容
メインディッシュ1品で£25〜30(日本円で約5,000〜6,000円)はざらで、それに前菜とドリンクをつければすぐに£50を超えます。それにも関わらず出てくるのは大味で脂っこい料理。味のばらつきもひどく、盛り付けも適当。
・極めつけはサービスチャージ最大20%
不満があっても、何も言わなければ20%近いサービスチャージが当然のように追加されます。しかもそのサービスが丁寧ならまだしも、愛想もなく、料理の説明すらしてくれないウェイターが運んできて終わり、というケースが少なくないのです。
これはもう「詐欺」と言っても差し支えないのでは?と感じるほど。観光客にとっては「ロンドンだから高いのは仕方ない」と諦めるのかもしれませんが、地元の人間にとってはストレスでしかありません。
食文化に対する姿勢の違い
この差は、単に「料理人の腕前」だけの話ではありません。根底には、食文化そのものに対するリスペクトの度合いが違うのではないかと感じます。
アムステルダムでは、街全体が「食」を文化の一部として捉えている雰囲気があり、料理人はもちろん、サーバーも一皿一皿に思いを込めて届けている印象があります。そうした丁寧な姿勢は、客にも自然と伝わってくるものです。
対してロンドンでは、どこか「とりあえず提供しておけばいい」という、効率重視の考えが根底にあるように思えてなりません。もちろん例外はありますが、それが日常的に味わえるレベルで存在していないのが残念です。
最後に:ロンドンのレストラン業界に一言
ロンドンよ、頼むからもう少し「食」を大切にしてくれ。高いお金を払って焦げた料理を食べ、無愛想な店員に接客され、それに対して文句も言えない空気…。これは本当に健全なレストラン文化とは言えません。
アムステルダムのように、料理にもっと「誇り」と「責任」を持ってほしい。そして、「高い=偉い」というロジックではなく、「美味しい=価値ある」というシンプルな原点に立ち返ってほしいのです。
今回の旅で、アムステルダムの魅力を存分に味わえたのはもちろんですが、同時に「自分が普段食べていたものがどれだけ残念だったか」に気づかされる機会にもなりました。
美味しい料理と丁寧なサービスは、それだけで人の心を満たしてくれるものです。だからこそ、日常の中にこそ、そういう体験がもっと増えてほしいと心から願います。
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