イギリスの中心部とはどこか?~地理的中心と文化的中心、そしてその地に息づく町々~

はじめに

「イギリスの中心部はどこか?」という問いは、一見すると単純なようで、実は奥深いテーマである。国の中心とは、地理的中心を指すのか、それとも経済的・文化的な重心を意味するのかで答えが異なってくる。多くの人々が「イギリス」と聞いて真っ先に思い浮かべる都市は首都ロンドンだが、実際にはロンドンはイングランド南東部に位置しており、イギリス全体の「中心」ではない。この記事では、地理的な観点を軸に「イギリスの中心」とされる場所を特定し、そこに位置する町々の特徴や歴史、現代的意義について詳しく解説する。


1. 地理的な中心とは?

イギリス、すなわちグレートブリテン島と北アイルランドを含む「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」の地理的中心を定義する場合、以下のような方法がある:

  • 重心法(Centroid Method):地図を切り抜き、バランスの取れる点を中心とする方法。
  • 経緯度の平均:国内の最北端・最南端・最東端・最西端の座標から平均値をとる方法。
  • GIS(地理情報システム)による解析:高度な技術で面積や地形を考慮して算出。

このような方法で定義された「イングランドの地理的中心」は、現在ではノッティンガムシャー州のファニー・ベント(Fenny Drayton)またはマーケット・ボスワース(Market Bosworth)近郊、あるいはダービーシャー州のクロススポイント付近など、複数の地点が挙げられる。

また、2014年にOrdnance Survey(英国国土地理院)が正式に発表した「イングランドの地理的中心地」は、ランカシャー州ウィットン(Whalley)に近いダービーシャー州のリンカーンシャー村(Lindley Hall Farm)であるとされている。


2. イギリスの地理的中心とされる町:マンスフィールド(Mansfield)

近年、イングランドの中心部として知られつつあるのがマンスフィールド(Mansfield)である。これはノッティンガムシャー州に位置し、北にシェフィールド、南にノッティンガムという大都市に挟まれた場所にある中規模都市だ。マンスフィールドは歴史的にも地理的にも「イングランドの中心部」に近い町としての条件を多く備えている。

【マンスフィールドの特徴】

  1. 歴史的背景
     マンスフィールドはローマ時代以前からの人の居住が確認されている古い町であり、ドゥームズデイ・ブック(11世紀の国勢調査)にもその名が記されている。中世には織物業や皮革産業が栄えた地域でもあり、産業革命期には石炭の採掘と繊維産業の中心地として繁栄した。
  2. 現代の産業
     現在では製造業を中心とする中小企業が多く、またロジスティクス(物流)や倉庫業などのインフラも整っている。位置的に全国へのアクセスが良く、イギリス中部の物流拠点としても成長中である。
  3. 交通の要衝
     マンスフィールドは鉄道と高速道路(M1)により南北を結ぶ重要なルート上にあり、ロンドンやマンチェスター、リーズへのアクセスも容易。地理的にまさにイングランドの「へそ」に当たるような立地である。
  4. 自然と観光
     近隣にはロビン・フッド伝説で知られるシャーウッドの森(Sherwood Forest)があり、観光資源としても有望。加えて、ピーク・ディストリクト国立公園へも比較的近く、自然愛好家にも人気のあるエリアだ。

3. 他の候補地:ダービー(Derby)とノッティンガム(Nottingham)

マンスフィールドに加えて、以下の2都市もイングランドの中心に近い町として候補に挙げられる。

【ダービー(Derby)】

ダービーはダービーシャー州の州都であり、イギリスで初めて工場制手工業が確立された都市のひとつ。産業革命期には鉄道やエンジンの製造で重要な役割を果たした。

  • 世界的なエンジンメーカー「ロールス・ロイス」の本拠地。
  • 現在でも航空宇宙・自動車産業が盛ん。
  • 市の中央駅はイングランド各地との接続性に優れている。

【ノッティンガム(Nottingham)】

ノッティンガムはロビン・フッドの伝説の舞台であり、大学都市としても知られる。産業革命期にはレース(織物)の産業が発達し、現在では情報技術と医薬品研究でも注目されている。

  • ノッティンガム大学は世界的に評価される教育機関。
  • 都市機能と歴史文化の融合が魅力。

4. 地理的中心地の象徴としての価値

なぜ「中心地」であることが重要なのか。それは以下のような理由からである:

  • アイデンティティと象徴性:中心であることはその地域に独自の価値や誇りを与える。たとえばフランスの中心であるブルジュ(Bourges)や日本の「日本列島の中心」とされる長野県など、国の「へそ」とされる地域には象徴的な意味がある。
  • インフラ整備の拠点:物流・交通・通信といったインフラのハブとしての位置づけがしやすくなる。
  • 観光や経済活性化の材料:中心をPRポイントにして観光資源とすることも可能。

イギリスでも、これらの町々は自身の「中心性」を観光やブランディングに活用する取り組みを始めている。


5. 文化・感情的な「中心」はどこか?

ここまで「地理的中心」を中心に論じてきたが、文化や感情面での「イギリスの中心」を考えるとまた異なる答えが浮かび上がる。

  • ロンドン:経済、政治、文化の中心であり、グローバル都市。
  • マンチェスター:音楽・サッカー・労働運動などで影響力が大きい。
  • バーミンガム:イングランド中部に位置し、産業革命の象徴都市のひとつ。

これらの都市は、物理的には「中心」ではないものの、人々の意識や歴史的意義の面で「中心」と見なされることもある。


まとめ

イギリスの「中心部」とは、単に地理的な重心だけではなく、歴史や産業、文化を通じて多面的にとらえる必要がある。地理的中心としてはノッティンガムシャー州やダービーシャー州に位置する町、特にマンスフィールドがその最有力候補として挙げられるが、それだけでイギリスの本質を語ることはできない。

中心に位置するということは、ただの「地理的な事実」以上の意味を持ち得る。町の人々がその事実に誇りを持ち、地域資源として活用し、将来へとつなげていくことが、真の「中心都市」への道なのである。

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