「アメリカがイギリスを軍事攻撃する可能性はあるのか」と聞かれれば、現在の国際情勢では、その可能性は極めて低いと考えられます。
ただし、国家間の関係に「絶対」はありません。将来、アメリカの政治体制やNATOの仕組みが大きく変われば、現在では考えにくい対立が発生する可能性まで完全に否定することはできません。
この記事では、英米関係の現状と、どのような条件が重なれば両国が対立する可能性があるのかを考えてみます。
現在のアメリカはイギリス最大の軍事同盟国
2025年に発表されたイギリスの国家安全保障戦略では、アメリカを「イギリスにとって最も重要な防衛・安全保障上の同盟国」と位置付けています。
両国はNATOだけでなく、核兵器、情報機関、軍事技術、サイバーセキュリティー、AUKUSなど、非常に幅広い分野で協力しています。イギリス軍とアメリカ軍は、装備や通信システム、訓練方法についても高い相互運用性を持っています。
情報面でも、イギリスとアメリカは「ファイブ・アイズ」の中心国です。GCHQとアメリカ国家安全保障局は、1946年のUKUSA協定を基礎として長期間にわたり通信情報などを共有してきました。
経済関係も深く、イギリス政府によると、2024年の英米間の貿易額は約3,230億ポンドに達し、両国は互いに最大級の投資国でもあります。
つまり、アメリカがイギリスを攻撃することは、単に同盟国を攻撃するだけではありません。アメリカ自身の軍事、情報、経済ネットワークの重要な一部を破壊することになります。
NATOが大きな抑止力になっている
イギリスとアメリカは、どちらもNATO加盟国です。
北大西洋条約第5条では、ヨーロッパまたは北米にある加盟国への武力攻撃を、加盟国全体への攻撃と見なすことが定められています。ただし、各国が必ず同じ形で参戦するという意味ではなく、軍事力を含め、それぞれが必要と判断する措置を取る仕組みです。
また、北大西洋条約第1条は、加盟国に国際紛争を平和的手段で解決し、国連の目的に反する武力の威嚇や行使を控えるよう求めています。NATOは加盟国間の争いについても、まず平和的な解決を図ることを原則としています。
もっとも、アメリカ自身がイギリスを攻撃した場合、通常の第5条の仕組みがそのまま機能するとは限りません。NATOの政治的決定は全加盟国の合意、つまりコンセンサスを原則としているため、攻撃側のアメリカが意思決定に参加する異常事態では、組織としての対応が深刻に混乱すると考えられます。これは条約上明確に想定された状況ではなく、実際の対応は各国による個別のイギリス支援に移る可能性があります。
在英米軍基地も両国を結び付けている
イギリス国内の一部の軍事施設は、アメリカ国防総省の部隊や施設に提供されています。
その法的な基礎には、1951年のNATO軍地位協定とイギリスの1952年訪問軍法、さらに英米間の補足的な取り決めがあります。
アメリカにとってイギリスは、ヨーロッパ、中東、大西洋方面で活動するための重要な軍事拠点です。そのため、イギリス本土への攻撃は、イギリス軍だけでなく、イギリスに配置されたアメリカ側の施設や要員まで危険にさらす可能性があります。
現実には、アメリカが自国の軍事拠点を置く同盟国を攻撃する合理的な理由はほとんどありません。
イギリスには核抑止力もある
イギリスは核兵器を保有しており、政府は4隻のドレッドノート級原子力潜水艦の建造と、継続的な核抑止力の維持を約束しています。
イギリスのトライデント核システムはアメリカとの技術協力に大きく依存していますが、イギリス政府は、核兵器の運用について完全な作戦上の独立性を維持していると説明しています。
そのため、仮にアメリカがイギリスへの大規模攻撃を検討した場合、核保有国同士の衝突に発展する危険を考慮しなければなりません。核兵器が実際に使用されるとは限りませんが、壊滅的なエスカレーションの可能性そのものが強い抑止力になります。
それでも英米が対立するとしたら
現状で最も現実的なのは、ミサイルや戦闘機による直接攻撃ではなく、経済的・政治的な圧力です。
例えば、外交問題をめぐって意見が対立した場合、アメリカが関税を引き上げる、先端技術の輸出を制限する、情報共有の範囲を縮小する、防衛協力の条件を変更するといった可能性は考えられます。
英米は2025年以降も経済、安全保障、AI、原子力、量子技術などの協力を拡大していますが、こうした深い依存関係は、反対に一方の国が相手に圧力をかける手段にもなり得ます。
直接的な軍事衝突が現実味を帯びるには、少なくとも次のような極端な変化が必要でしょう。
アメリカまたはイギリスで現在とは根本的に異なる政治体制が成立する、NATOが崩壊する、英米間で重大な領土・核・軍事施設問題が発生する、あるいは第三国との戦争をめぐって両国が敵対陣営に分かれるといった状況です。
しかし、これらはどれも通常の外交摩擦とは比較にならないほど大きな変化です。
アメリカの攻撃より巻き込まれる危険の方が高い
イギリスにとって、アメリカから直接攻撃される危険よりも、アメリカが関係する戦争に巻き込まれる危険の方が現実的です。
イギリス国内には米軍関連施設があり、両国は情報、核、宇宙、サイバー、軍事作戦で緊密に連携しています。そのため、アメリカとロシア、中国、イランなどの間で大規模な戦争が発生すれば、イギリスの基地や軍事施設が相手国の攻撃対象になる可能性があります。
つまり、「アメリカがイギリスを攻撃する」というよりも、「英米同盟が強いために、アメリカの敵からイギリスが攻撃される」というシナリオの方が、はるかに注意すべき問題です。
まとめ
2026年現在、アメリカがイギリスを意図的に軍事攻撃する可能性は、限りなく低いと考えられます。
英米両国はNATO、ファイブ・アイズ、核協力、軍事基地、貿易、投資、先端技術など、簡単には切り離せない関係にあります。攻撃によってアメリカが得られる利益はほとんどなく、軍事的・経済的・外交的な損失は極めて大きくなります。
ただし、英米関係が常に友好的であるとは限りません。今後、貿易、外交、軍事作戦をめぐり厳しい対立が発生し、経済制裁や情報共有の制限といった圧力が使われる可能性はあります。
したがって、結論としては、アメリカによるイギリスへの直接攻撃を心配する必要はほとんどないものの、アメリカへの安全保障上の依存と、アメリカの戦争に巻き込まれるリスクについては、現実的な議論が必要であると言えるでしょう。










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