イーロン・マスク率いる宇宙開発企業スペースXが、英国の投資家の間でも大きな話題となっています。
今回注目されたのは、巨大宇宙船「スターシップ」の13回目となる飛行試験です。打ち上げテストは主要な目標をほぼ達成し、技術面では大きな前進となりました。
ところが、ロケットが順調に宇宙へ飛び立った一方で、スペースXの株価は地上どころか、地下へ潜るような下落を続けています。
ナスダックに上場するスペースXの銘柄コードは「SPCX」。2026年6月の新規株式公開では1株135ドルに設定されましたが、7月27日には一時111ドル台まで下落しました。公募価格から約17.5%安い水準です。
ロケットの打ち上げが成功したのに、なぜ株価は上がらなかったのでしょうか。
13回目のスターシップ飛行試験は「ほぼ成功」
スターシップの13回目の飛行試験は、2026年7月24日に米テキサス州のスターベースから実施されました。
今回の飛行では、スターシップ上段が予定されていた飛行ルートを進み、20基のスターリンクV3衛星を展開。宇宙空間でのエンジン再点火にも成功し、最後はインド洋への制御された着水を行いました。スペースXによれば、主要な試験目標はすべて達成されたとされています。
ただし、完全な成功だったわけではありません。
大型ブースター「スーパーヘビー」は着水前のエンジン再点火が十分に行われず、予定していた軟着水ではなく、激しい着水となりました。つまり、ロケット全体を回収して再利用するというスペースXの最終目標には、まだ技術的な課題が残っています。
それでも、スターシップ上段の飛行結果だけを見れば、今回のテストは「ほぼ完璧」と評価できる内容でした。
それでも株価は約4%下落
普通に考えれば、大規模な打ち上げ試験の成功は株価上昇の材料になりそうです。
実際、7月27日の取引開始直後にはスペースX株が少し上昇する場面もありました。しかし、その勢いは長く続かず、株価は一時約4%下落。上場後の最安値を更新しました。
ロケットは見事に上昇したのに、株価は見事に下降したという、少々皮肉な結果です。
理由その1:期待が大きすぎた
スペースXは2026年6月12日、1株135ドルで株式を公開しました。株式公開による調達額は約750億ドルに達し、上場時点の企業価値は約1兆7,700億ドルという非常に高い評価でした。
上場初日には株価が大きく上昇し、一時は200ドルを超える水準まで買われました。
しかし、株価が急上昇したということは、それだけ将来の成功を先回りして織り込んでいたということでもあります。
スターシップが一度、二度成功しただけでは足りません。高すぎる企業評価を正当化するためには、打ち上げ回数の増加、ロケットの完全再利用、スターリンクの成長、さらには継続的な利益拡大まで証明する必要があります。
投資家からすれば、「打ち上げ成功は素晴らしい。でも、その成功はいくらの利益になるのか」という話なのです。
理由その2:技術的成功がすぐ利益になるわけではない
スターシップは、月や火星への輸送だけでなく、大量のスターリンク衛星を低コストで打ち上げるための重要なシステムです。
しかし、現在はまだ試験段階です。
ロケットを開発し、打ち上げるためには莫大な費用が必要です。テストに成功しても、翌日から突然売上や利益が大幅に増えるわけではありません。
投資家が欲しいのは、美しい打ち上げ映像だけではなく、具体的な収益です。
スターシップが安定して運用され、機体とブースターを短期間で回収・再利用できるようになって初めて、打ち上げコストの大幅な削減が可能になります。
今回の試験成功は、その未来へ近づく一歩ではありますが、すぐに会社の利益を押し上げる材料ではないと判断されたのでしょう。
理由その3:公募価格そのものが高すぎた可能性
スペースXは、宇宙開発企業というより、テクノロジー、通信、AI、国防を組み合わせた巨大成長企業として評価されました。
しかし、上場時の企業価値や売上高に対する株価水準は非常に高く、少しでも成長期待が後退すれば、株価が大きく下がりやすい状態でした。
スペースX株は上場後、一時公募価格を大きく上回りましたが、その後急落。米国の大型IPOとしては、金融危機後でも特に弱い上場後のパフォーマンスの一つと報じられています。
つまり、会社が悪くなったというより、最初の値段が未来を先取りしすぎていた可能性があります。
理由その4:ロックアップ解除への警戒
株式市場が警戒しているもう一つの要因が、上場前から株式を保有していた投資家や関係者の売却です。
IPOでは通常、創業者、従業員、初期投資家などが一定期間、株式を売却できない「ロックアップ」が設定されます。
スペースXでも、今後一部の株式について売却制限が解除される予定です。大量の株式が市場に出てくる可能性があるため、投資家は将来の売り圧力を警戒しています。
実際に誰も売らなかったとしても、「売るかもしれない」という不安だけで、株価は下がることがあります。
理由その5:初の決算発表を見極めたい
スペースXは8月4日に、上場企業として注目度の高い四半期決算を発表する予定です。
投資家が確認したいのは、スターリンクの契約者数や売上成長だけではありません。
ロケット開発にどれほどの費用がかかっているのか、会社全体で利益を出せているのか、今後も巨額の資金が必要なのかといった、現実的なお金の問題です。
打ち上げ成功というニュースよりも、決算書に書かれた数字のほうが、短期的な株価に大きく影響する可能性があります。
「良い会社」と「良い株」は同じではない
今回のスペースX株の動きは、株式投資でよく言われる重要な点を示しています。
素晴らしい技術を持つ会社が、必ずしも素晴らしい投資先とは限りません。
どれだけ将来性がある企業でも、株価がすでに高すぎれば、良いニュースが発表されても上昇しないことがあります。
反対に、多少問題を抱えている会社でも、株価が十分に安ければ、少しの改善で大きく上昇する場合があります。
投資家が買っているのは会社そのものではなく、その会社の将来に対して付けられた「値段」なのです。
スペースXの本当の勝負はこれから
スペースXの株価が公募価格を下回ったからといって、スターシップ計画が失敗したわけではありません。
今回の飛行試験では、衛星展開、宇宙空間でのエンジン再点火、再突入、制御着水など、将来の商業運用に必要な重要技術が確認されました。
一方で、現在の株価には、巨大すぎる企業評価、利益への不安、ロックアップ解除、決算発表への警戒など、技術とは別の問題が影響しています。
ロケット開発では「爆発しなければ成功」と言われることがあります。
しかし、株式市場では「成功したから株価が上がる」とは限りません。
スペースXは宇宙へ向かって確実に前進していますが、SPCXの株価が再び上昇軌道へ戻れるかどうかは、打ち上げ映像の迫力ではなく、今後発表される売上と利益の数字にかかっているのかもしれません。
※本記事は特定の株式の購入や売却を推奨するものではありません。







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