イギリスで最も重い犯罪とは?殺人罪と「一生出られない」刑罰の仕組み

イギリスで最も重い犯罪は何かと聞かれたら、多くの人が「殺人」と答えるでしょう。

もちろん、テロ、大規模な性犯罪、国家安全保障を脅かす犯罪など、極めて重大な犯罪はほかにもあります。しかし、イングランドとウェールズの法律において、殺人罪は有罪になれば必ず終身刑が科されるという特別な位置づけになっています。

さらに、特に悪質な殺人事件では、刑務所から一生出ることができない「ホール・ライフ・オーダー」が言い渡される可能性があります。

では、イギリスの終身刑は本当に「死ぬまで刑務所」という意味なのでしょうか。殺人罪の刑期は、どのように決められているのでしょうか。

法律上の「犯罪ランキング」があるわけではない

まず、イギリスの法律に「最も重い犯罪ランキング」が存在するわけではありません。

犯罪の重大性は、被害の大きさ、犯人の意図、計画性、被害者の立場、使用した武器、前科など、事件ごとの事情によって判断されます。

ただし、イングランドとウェールズでは、殺人罪だけが原則として必ず終身刑になる犯罪です。強姦、強盗、過失致死、殺人未遂などにも最高刑として終身刑が用意されていますが、これらについては裁判官が事件の内容に応じて刑を決めます。殺人罪の場合は、終身刑そのものを避けることができません。

その意味で、殺人罪は英国刑法の中でも、最も重い犯罪の一つであることは間違いありません。

イギリスでは何をすると「殺人罪」になるのか

イングランドとウェールズにおける殺人罪は、正当防衛などの法的な正当性がない状態で、人を死亡させ、殺す意思または重大な身体的危害を加える意思があった場合に成立します。

意外に思われるかもしれませんが、検察側が必ずしも「最初から殺すつもりだった」と証明しなければならないわけではありません。非常に重大なけがを負わせる意思があり、その結果として相手が死亡した場合にも、殺人罪となる可能性があります。

一方、死亡させた事件であっても、殺意や重大な傷害を与える意思が認められない場合や、責任能力の低下、制御不能などの部分的抗弁が成立する場合には、マンスローター、日本語では一般に故殺罪や過失致死罪などと訳される犯罪になることがあります。

マンスローターの最高刑も終身刑ですが、殺人罪とは異なり、すべての事件で必ず終身刑が科されるわけではありません。

殺人罪の刑罰は必ず終身刑

イングランドとウェールズで成人が殺人罪により有罪となった場合、裁判官は必ず終身刑を言い渡します。

ただし、ここで注意しなければならないのが、終身刑には二つの異なる意味が含まれていることです。

一つは、実際に刑務所で過ごさなければならない最低期間。もう一つは、刑務所から釈放された後も、生涯にわたって刑の対象であり続けるという意味です。

裁判官は終身刑を言い渡す際、「最低何年間は刑務所から出られない」という最低服役期間を設定します。最低期間を終えても、自動的に釈放されるわけではありません。仮釈放委員会が、釈放しても社会に危険を及ぼさないと判断した場合に限り、条件付きで釈放されます。

つまり、最低服役期間が20年だったとしても、20年後に必ず出所できるという意味ではありません。

危険性が残っていると判断されれば、そのまま刑務所に収容され続ける可能性があります。

出所しても終身刑は終わらない

仮釈放が認められた場合でも、終身刑が終了するわけではありません。

釈放された人物は、生涯にわたってライセンスと呼ばれる条件の下で生活します。居住場所や行動、特定人物との接触などに条件が設けられることがあり、条件違反や社会への危険性が認められれば、新たな犯罪を犯していなくても刑務所へ戻される可能性があります。

したがって、イギリスの終身刑は「一定期間刑務所に入れば終了する刑」ではありません。

刑務所の外に出られる可能性はあっても、法的には死ぬまで続く刑罰なのです。

最低服役期間は何年になるのか

イングランドとウェールズでは、殺人罪の最低服役期間を決める際、法律で定められた基準が出発点として使われます。

成人事件では、主に15年、25年、30年、またはホール・ライフ・オーダーという基準があります。ただし、これは機械的に刑期を決める表ではありません。裁判官は事件の悪質性や加重・軽減事情を考慮し、最終的な最低期間を決定します。

例えば、犯人が犯罪に使用する目的でナイフなどの武器を現場へ持って行き、その武器で殺人を行った事件では、最低服役期間25年が出発点となる場合があります。

銃器や爆発物を使用した殺人、金銭目的の殺人、複数人の殺害、性的またはサディスティックな要素を含む殺人などは、さらに重い基準が検討される可能性があります。

計画性、被害者の弱い立場、証拠隠滅、前科、犯行後の行動なども刑期に影響します。

最も重い刑罰「ホール・ライフ・オーダー」

英国の刑罰の中で最も重いものとされるのが、ホール・ライフ・オーダーです。

通常の終身刑には、将来的に仮釈放を申請できる最低服役期間が設定されます。しかし、ホール・ライフ・オーダーには、その最低期間がありません。

仮釈放委員会による通常の釈放の可能性がなく、原則として死亡するまで刑務所で過ごすことになります。イングランドとウェールズの裁判所が科すことのできる、最も厳しい刑罰です。

この刑罰は、すべての殺人犯に科されるわけではありません。極めて例外的で、特に重大性が高い殺人事件に限られます。

複数の被害者を計画的に殺害した事件、子どもの誘拐や性的・サディスティックな行為を伴う殺人、政治的・宗教的・思想的な目的による殺人、過去に殺人罪で有罪になった人物による再度の殺人などが、対象となり得ます。

2026年の法改正では、職務や過去の職務への報復などを理由に警察官、刑務官、保護観察官を殺害した事件についても、ホール・ライフ・オーダーを検討する対象が拡大されました。

ただし、「出発点がホール・ライフ・オーダー」ということと、「必ずその刑になる」ということは同じではありません。裁判官は犯人の年齢や事件固有の事情を考慮したうえで最終判断を行います。

死刑は存在しない

これほど重大な殺人事件であっても、現在のイギリスに死刑制度はありません。

そのため、ホール・ライフ・オーダーが実質的な最高刑となります。

死刑とは異なり国が受刑者の生命を奪うわけではありませんが、通常の仮釈放制度によって社会へ戻る機会は与えられません。

「生きている限り刑務所から出られない」という点で、非常に重い刑罰です。

強姦やテロも終身刑になる可能性がある

殺人以外にも、強姦、殺人未遂、重大なテロ犯罪、誘拐、武装強盗など、最高刑が終身刑となる犯罪があります。

しかし、これらの犯罪で「最高刑が終身刑」とされていても、すべての有罪判決で終身刑になるわけではありません。

裁判所は犯罪の重大性と、犯人が将来も社会に深刻な危険を及ぼす可能性を判断します。条件を満たす危険な犯罪者には終身刑が科されることがありますが、殺人罪のように有罪判決と同時に自動的に終身刑が決まる制度とは異なります。

したがって、「最も長い刑を科される可能性がある犯罪」は複数ありますが、「必ず終身刑になる犯罪」という意味では、殺人罪が特別な位置にあります。

スコットランドでは仕組みが少し異なる

イギリスは一つの国のように見えますが、刑事司法制度は地域によって異なります。

スコットランドでも、殺人罪には必ず終身刑が科されます。裁判官は「パニッシュメント・パート」と呼ばれる、仮釈放が検討されるまでに刑務所で過ごさなければならない最低期間を設定します。

最低期間が終了しても釈放は保証されず、スコットランド仮釈放委員会が危険性を審査します。釈放された場合も、生涯にわたって条件付きの状態が続きます。

スコットランド政府の統計では、2023~2024年度に言い渡された終身刑のパニッシュメント・パートは、平均20.5年でした。ただし、これは全事件に適用される基準ではなく、事件ごとの刑期には大きな違いがあります。

北アイルランドでも殺人罪には終身刑が科されますが、最低服役期間を決める制度や刑事手続きは、イングランドとウェールズとは異なります。

「終身刑なのに20年」は矛盾していない

殺人事件の報道で「終身刑、最低服役期間20年」と聞くと、「20年なのか、一生なのか、どちらなのか」と疑問に思う人もいるでしょう。

答えは、どちらも正しいということです。

最低服役期間20年とは、少なくとも20年間は仮釈放を申請できないという意味です。20年後に危険性がないと判断されれば、条件付きで刑務所を出られる可能性があります。

しかし、釈放されても終身刑自体は続きます。危険性が認められれば再収監され、仮釈放が認められなければ、30年、40年、あるいは死亡するまで刑務所に残ることもあります。

ホール・ライフ・オーダーの場合には、通常の仮釈放を申請する機会そのものがありません。

この違いを理解すると、英国のニュースで使われる「ライフ・センテンス」の意味が分かりやすくなります。

殺人罪の制度は現在見直しが検討されている

2026年7月現在、イングランドとウェールズの殺人罪制度について、大規模な見直しが検討されています。

法律委員会は、現在の殺人罪を、殺意があった場合の「第一級殺人」と、重大な傷害を与える意思によって死亡させた場合の「第二級殺人」に分ける案を公表しました。

提案では、第一級殺人には引き続き強制的な終身刑を適用し、第二級殺人については終身刑を最高刑としながら、裁判官に刑を選択する余地を与えることが検討されています。

ただし、これは現時点では協議段階の提案であり、現在の法律がすでに変更されたわけではありません。

少なくとも現行制度では、重大な身体的危害を加える意思しかなかった場合でも、被害者が死亡すれば殺人罪となり、原則として終身刑が科されます。

最も重いのは「殺人罪」、最も厳しいのは「一生出られない刑」

イギリスで最も重い犯罪を一つだけ挙げるなら、殺人罪が最も分かりやすい答えでしょう。

特にイングランドとウェールズでは、殺人罪は有罪になれば必ず終身刑となる、極めて特殊な犯罪です。

ただし、通常の終身刑は、必ずしも死ぬまで刑務所に収容されることを意味しません。裁判官が定めた最低期間を終え、仮釈放委員会が安全だと判断した場合に限って、条件付きで釈放される可能性があります。

一方、特に残虐で計画的な殺人に対して科されるホール・ライフ・オーダーは、通常の仮釈放の可能性がありません。

つまり、英国で最も重い刑罰とは、単に「懲役何年」という数字ではありません。

一生涯にわたって刑を受け続け、二度と自由な社会へ戻れないこと。

それが、現在のイギリスにおける最も厳しい刑罰なのです。

※本記事は2026年7月時点の一般的な制度を解説したもので、個別事件に対する法律上の助言ではありません。

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