なぜ今年のイギリスはこんなに暑いのか?繰り返す猛暑の理由を解説

「イギリスの夏は短く、涼しく、雨ばかり」

そんな昔ながらのイメージが、今年は完全に崩れつつあります。ロンドンをはじめ、イングランドやウェールズの各地では30℃を超える日が繰り返され、夜になっても室内の温度が下がりません。

英国の住宅は寒さを防ぐことを優先して造られているため、断熱性は高くてもエアコンが付いていない家がほとんどです。そのため、外気温が30℃程度でも、屋内ではそれ以上の暑さを感じることがあります。

では、なぜ2026年のイギリスは、これほど暑いのでしょうか。

今年は「気のせい」ではなく、本当に異常に暑い

今年の暑さは、単に私たちが暑さに慣れていないからではありません。

英国気象庁によると、2026年は7月中旬の段階で、30℃を超えた日数が1976年の夏全体をすでに上回りました。また、5月、6月、7月のすべてで35℃以上を観測したのは、英国の観測史上初めてです。

6月だけを見ても、イングランドでは観測史上最も暖かい6月となり、英国全体とウェールズでは1884年以降で2番目に暖かい6月となりました。イングランドの6月の平均気温は17.1℃で、長期平均を約3℃上回っています。

つまり、「今年は何となく暑く感じる」というレベルではなく、実際の観測記録でも極めて異例の夏なのです。

最大の原因は、英国上空に居座る高気圧

今年の猛暑を直接引き起こしている最大の原因は、英国付近に高気圧が繰り返し発達していることです。

高気圧に覆われると、上空から空気が下降します。下降した空気は圧縮されて温まり、雲もできにくくなります。その結果、強い日差しが朝から地面を照らし続け、日を追うごとに気温が上昇します。

さらに今年は、ジェット気流が英国の西側で南に蛇行する場面があり、その配置によってヨーロッパ南部や東部の暖かい空気が英国まで押し上げられました。高気圧、強い日差し、南からの暖気という条件がそろい、暑さが蓄積されやすくなったのです。

通常であれば、大西洋から低気圧や雨雲が入り、数日で暑さを追い払ってくれます。しかし、高気圧が同じ場所に居座る「ブロッキング」と呼ばれる状態になると、天気がなかなか変わりません。

今年は、この暑さを一度リセットするはずの涼しい空気や雨が入りにくい状態が、何度も繰り返されています。

南ヨーロッパの熱い空気が英国まで流れ込んでいる

英国で気温が急激に上がるときは、スペイン、フランス、北アフリカ方面で暖められた空気が北上していることがあります。

2026年6月後半にも、ヨーロッパ大陸上で高気圧が発達し、非常に暖かい空気が英国へ向かって流れ込みました。これにより、昼間の最高気温だけでなく、夜間の最低気温も記録的に高くなりました。

南からの暖気は、英国に到着した瞬間だけ暑いわけではありません。高気圧の下でさらに日差しを受け、地面と建物が熱を蓄えることで、数日間にわたって暑さが増幅されます。

ロンドンのようにコンクリートやアスファルトが多い都市では、昼間に蓄えた熱が夜になっても放出され続けます。これが都市部の暑さをさらに厳しくする「ヒートアイランド現象」です。

海まで異常に暖かくなっている

海に囲まれた英国では、本来、周囲の冷たい海が天然のエアコンのような働きをします。しかし今年は、その海自体が異常に暖かくなっています。

英国気象庁によると、イングランドとウェールズの沿岸、イギリス海峡、北海南部などで海洋熱波が発生し、海面水温が平年より約1.5~4℃高くなりました。一部では、平年を4~5℃上回る場所も確認されています。

暖かい海が昼間の最高気温を直接大幅に引き上げるとは限りません。しかし、夜間に空気が冷えるのを妨げ、沿岸部を中心に高い気温を維持する働きがあります。

つまり今年は、昼間は強い日差しで地面が暖められ、夜は暖かい海と湿った空気によって冷えにくくなっています。昼も夜も休みなく暑い状態です。

湿度が高いため、実際の気温以上に暑く感じる

今年の暑さを特に苦しくしているのが湿度です。

英国へ流れ込む空気が大西洋上を通過すると、多くの水分を含みます。湿度が高いと汗が蒸発しにくくなるため、人間の体は十分に熱を逃がすことができません。

そのため、同じ30℃でも、乾燥した国の30℃より英国の30℃のほうが蒸し暑く、不快に感じることがあります。特に夜間の湿度が高いと、睡眠中も体温が下がりにくくなります。

2026年6月は「トロピカルナイト」と呼ばれる、最低気温が20℃を下回らない夜が相次ぎました。英国、イングランド、ウェールズでは、6月の平均最低気温が観測史上最高となっています。

エアコンが普及していない英国では、日中の最高気温以上に、この「夜になっても冷えないこと」が生活に大きな影響を与えます。

雨が少なく、乾いた地面がさらに空気を暖める

7月に入ってからは雨が非常に少なくなっています。英国気象庁の集計では、7月1日から26日までの英国全体の降水量は21.3ミリで、特に7月8日から23日までの総降水量はわずか1.9ミリでした。

地面が湿っている場合、太陽のエネルギーの一部は水分を蒸発させるために使われます。しかし、地面が乾燥していると、太陽エネルギーの多くが地面と空気を直接暖めるために使われます。

暑くなると地面が乾き、地面が乾くとさらに気温が上がりやすくなるという悪循環です。

英国各地では、連続する猛暑と乾燥によって土壌や植物から急速に水分が失われ、衛星写真でも緑だった土地が短期間で茶色く変化していることが確認されています。

そして無視できない気候変動

高気圧やジェット気流は、昔から存在する自然の気象現象です。したがって、「今日暑いのはすべて気候変動のせい」と単純に説明することはできません。

ただし、現在の英国は、数十年前よりも高い気温を出発点として天候が変化しています。

例えるなら、以前よりも最初から温度を上げたオーブンの中で、同じ気圧配置が発生しているようなものです。高気圧という条件が同じでも、最終的に到達する気温は以前より高くなります。

英国気象庁によると、英国の気温は1980年代以降、10年当たり約0.25℃の割合で上昇しています。また、英国で観測された歴代の暖かい夏の上位5つは、すべて2003年以降に集中しています。

2026年5月と6月の熱波を対象とした分析では、人間活動による気候変動が日中の最高気温を約3~4℃押し上げたと推定されています。これはすべての暑い日に一律で3~4℃が追加されるという意味ではありませんが、今年の記録的な熱波が、温暖化していない世界でははるかに起こりにくかったことを示しています。

「英国の夏は涼しい」は過去の常識になるのか

もちろん、これから英国が毎年スペインのような夏になるわけではありません。

英国の天気は大西洋やジェット気流の影響を強く受けるため、冷涼で雨の多い夏が戻ってくる年もあります。北部や西部では雨が降っている一方、南東部だけが猛暑になるなど、地域差も大きくなります。

しかし、気候全体が暖かくなれば、同じ気圧配置が発生した際に、以前より高い気温に達する可能性が高まります。熱波はより頻繁に、より長く、より厳しくなると予測されています。

今年の暑さは、一時的な高気圧だけで起きたものではありません。

高気圧の停滞、ジェット気流の位置、南からの暖気、暖かい海、雨不足、乾燥した地面、そして長期的な気候変動。これらの条件が重なった結果、2026年の英国は異例の暑さに見舞われています。

かつては「英国でエアコンなんて必要ない」と言われていました。しかし、これほど暑い夏が繰り返されるのであれば、その常識もそろそろ見直す時期に来ているのかもしれません。

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