なぜアメリカ人はイギリスに移住するのか?政治だけではない7つの理由

近年、アメリカ人の間でイギリスへの移住に関心を持つ人が増えているといわれています。

イングランドとウェールズで暮らすアメリカ生まれの住民は、2011年の約17万7,000人から、2021年には約20万3,000人へ増加しました。また、英国内務省の統計を基にした報道によると、2024年に英国市民権を申請したアメリカ市民は6,100人を超え、前年から26%増加しました。もっとも、市民権申請者の多くはすでに英国に住んでいるため、この数字がそのまま新規移住者数を示すわけではありません。

では、なぜアメリカ人はイギリスで暮らすことを選ぶのでしょうか。

1.言葉の壁が比較的低い

アメリカ人にとって、イギリスへの移住で最も大きな利点の一つは、英語で生活できることです。

ヨーロッパで暮らしてみたいと思っても、現地の言語を一から習得することは簡単ではありません。その点、イギリスなら、発音や表現、生活習慣の違いはあるものの、仕事、住居探し、教育、行政手続きなどを基本的に英語で進められます。

映画、音楽、テレビ、文学などを通じてイギリス文化に親しんできたアメリカ人も多く、全く知らない国へ移る場合より心理的なハードルが低いのです。

2.ロンドンに国際的な仕事が集まっている

ロンドンは、金融、保険、法律、テクノロジー、広告、メディア、ファッション、芸術などの国際的な仕事が集まる都市です。

アメリカ企業の英国支社へ転勤する人、英国企業に採用される人、大学や研究機関で働く人など、仕事をきっかけに移住するケースは少なくありません。

ただし、アメリカ国籍だからといって自由に働けるわけではありません。一般的なSkilled Workerビザでは、内務省の認可を受けた雇用主からスポンサーを受け、対象職種や給与条件を満たす必要があります。2026年時点では、通常、年収4万1,700ポンドまたは職種ごとの基準額のうち、高い方を満たすことが求められます。

研究、芸術、文化、デジタル技術などの分野で実績がある人にはGlobal Talentビザもあります。また、対象となる海外大学を過去5年以内に卒業した人は、High Potential Individualビザを利用できる場合があります。

3.イギリスの大学で学びたい

オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、インペリアル・カレッジ・ロンドン、UCL、LSEなど、イギリスには国際的に知られた大学が数多くあります。

学士課程だけでなく、修士課程が通常1年間で修了できるケースが多いことも、アメリカ人留学生にとって魅力です。学費は決して安くありませんが、アメリカの大学院と比較して、期間を短縮できることがあります。

英国の大学を卒業した後は、条件を満たせばGraduateビザへ移行できます。2026年12月31日までに申請した場合は通常2年間、2027年1月1日以降の申請では通常18カ月間、英国に滞在して仕事を探したり働いたりできます。博士号などの取得者については3年間です。

留学をきっかけに英国企業へ就職したり、英国人のパートナーと家庭を築いたりして、長期滞在につながる人もいます。

4.医療費への不安を減らしたい

アメリカでは、健康保険の内容や雇用状況によって、治療費の負担が大きく変わります。そのため、病気や事故による高額な医療費を不安に感じ、イギリスのNHSに魅力を感じる人もいます。

実際に、英国市民権を取得したアメリカ人への取材では、アメリカの医療費が移住や定住を考える理由の一つになったという声が紹介されています。

ただし、外国人がイギリスに来れば、直ちに無料で医療を受けられるという意味ではありません。多くの長期ビザ申請者はImmigration Health Surchargeを事前に支払います。現在の年間料金は、学生などが776ポンド、その他の多くの申請者が1,035ポンドです。ビザ開始後はNHSを利用できますが、処方薬、歯科治療、眼科検査などには別途費用が発生する場合があります。

5.銃犯罪や政治的分断への不安

すべてのアメリカ人が政治的な理由で移住するわけではありません。しかし、一部の人にとっては、銃犯罪、学校の安全、人工妊娠中絶をめぐる州ごとの法律、社会の分断などが、海外移住を考えるきっかけになっています。

特に子どものいる家庭では、学校での銃撃事件に対する不安や、子どもをどのような社会環境で育てるかが重要な判断材料になります。

2024年の米大統領選挙後には、英国市民権を申請するアメリカ市民が前年同期より増加したと報じられました。ただし、政治的な不満だけで実際に移住できるわけではなく、最終的にはビザ、仕事、家族関係、資金などの条件を満たす必要があります。

6.ワークライフバランスを求めている

アメリカでは、職種や企業によっては有給休暇が少なく、長時間労働が一般的な場合があります。

一方、イギリスでは、ほとんどの労働者に年間5.6週間の法定有給休暇が認められています。週5日勤務の場合は最大28日相当となり、雇用主によってはこれに加えて福利厚生や柔軟な勤務制度を提供しています。

もちろん、英国でも業界によって労働環境は異なります。それでも、「仕事を人生の中心に置きすぎない暮らし」を求めるアメリカ人にとって、英国式の働き方が魅力的に映ることがあります。

7.歴史、文化、公共交通機関が身近にある

イギリスでは、歴史的な建築物、美術館、劇場、パブ、サッカー、音楽などを日常生活の一部として楽しめます。

特にロンドンは、ニューヨークのような国際都市でありながら、何百年もの歴史を持つ街並みが残っています。地下鉄、鉄道、バスを利用できるため、地域によっては自動車を所有せずに生活することも可能です。

さらに、フランス、オランダ、スペイン、イタリアなどへ比較的短時間で旅行できることも、アメリカ人にとって大きな魅力です。アメリカ国内では州を越えても文化や言語が大きく変わらないことがありますが、ヨーロッパでは短い旅行でも異なる文化を体験できます。

家族やパートナーとの生活も大きな理由

英国人や英国の永住権を持つ人と結婚したことをきっかけに、イギリスへ移住するアメリカ人もいます。

パートナー・配偶者ビザでは、双方が18歳以上で、英国で永続的に一緒に生活する意思があることなどを証明しなければなりません。通常は英語力と収入条件もあり、現在の最低収入基準は原則として年間2万9,000ポンドです。

親や祖父母を通じて英国市民権を取得できる可能性がある人や、すでに英国とアメリカの二重国籍を持っている人にとっては、通常のビザ申請者より移住のハードルが低い場合があります。

イギリス移住は必ずしも簡単ではない

イギリスに魅力を感じても、移住生活が必ず快適になるとは限りません。

ロンドンを中心に住宅費は高く、英国の給与がアメリカで受け取っていた給与より低くなる可能性もあります。小さな住宅、古い建物、冬の日照時間の短さ、NHSの待ち時間、行政手続きなどに不満を感じる人もいます。

また、アメリカ市民は海外に住んでも、原則として世界中の所得をアメリカの税務当局へ申告する義務があります。英米間には二重課税を調整するための条約がありますが、所得、投資、年金、会社経営などの状況によって税務処理が複雑になることがあります。

そのため、仕事やビザだけでなく、税金、医療、住宅、教育、将来の永住権取得まで考えて準備する必要があります。

まとめ

アメリカ人がイギリスに移住する理由は、単純に「アメリカが嫌になったから」ではありません。

共通言語による生活のしやすさ、ロンドンの仕事、英国の大学、医療制度、休暇制度、公共交通機関、歴史や文化、ヨーロッパへの近さなど、複数の理由が組み合わさっています。

一方で、政治的分断、銃犯罪、医療費への不安をきっかけに、アメリカ国外での生活を考え始める人がいることも事実です。

イギリスは、アメリカ人にとって文化的に理解しやすい国でありながら、働き方、医療、都市生活、社会制度には大きな違いがあります。

つまり、イギリスは「全く違う外国へ行く不安を抑えながら、アメリカとは異なる生活を体験できる国」であることが、アメリカ人を引き付ける最大の理由なのかもしれません。

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