イギリスからアメリカへ移住する人は、決して珍しくありません。
両国は英語を共通言語とし、歴史的・文化的なつながりも深いため、イギリス人にとってアメリカは比較的イメージしやすい移住先です。ニューヨークの金融業界、カリフォルニアのテクノロジー産業、フロリダの温暖な気候など、地域によって異なる魅力があります。
近年は仕事や結婚だけでなく、「もっと自由に働きたい」「政府や社会の制約から距離を置きたい」「自分の努力で成功できる環境に行きたい」という理由から、アメリカを目指すイギリス人もいます。
イギリスを離れる人は増えているのか
英国国家統計局の新しい推計方法によると、2024年にイギリス国外へ長期移住した英国籍者は約25万7,000人と推計されています。以前の推計より大幅に多い数字ですが、これは突然移住者が急増したというより、統計方法の改善によって実態がより正確に把握できるようになったためです。2025年には、英国籍者について出国者が入国者を約13万6,000人上回りました。
ただし、これらの人々が全員アメリカへ向かっているわけではありません。オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、スペイン、アラブ首長国連邦なども、イギリス人に人気のある移住先です。
それでもアメリカは、経済規模、英語環境、給与水準、起業機会という点で、特に専門職や経営者を引きつける国であり続けています。
なぜ「自由」を求めてアメリカへ行くのか
より大きな成功を目指せる
アメリカに魅力を感じるイギリス人の多くが期待するのは、単なる政治的自由ではなく、経済的な自由です。
イギリスでは、税負担、住宅価格、エネルギー費、事業規制などに不満を持つ人も少なくありません。特に起業家や高所得の専門職の中には、イギリス社会を「安定しているが、急成長を目指す人には窮屈」と感じる人がいます。
一方、アメリカには、事業を大きくし、投資を集め、成功すれば大きな報酬を得られるというイメージがあります。失敗する可能性も高いものの、「挑戦した人が評価される」という文化に魅力を感じるイギリス人もいます。
職業によっては給与が高い
テクノロジー、金融、医療、法律、エンターテインメントなどの分野では、アメリカの給与がイギリスより高くなる場合があります。
ロンドンにも世界的な企業は集まっていますが、ニューヨーク、シリコンバレー、ロサンゼルス、ボストン、シアトルなどには、さらに巨大な市場があります。そのため、若い専門職の中には、アメリカを「自分の能力を最大限に試せる場所」と考える人がいます。
もちろん、給与が高くても家賃、医療保険、教育費などの支出も大きいため、収入だけで生活の豊かさを判断することはできません。
広い家と異なる生活環境
ロンドンやイングランド南東部では、住宅価格が非常に高く、十分な広さの家を購入することが難しくなっています。
アメリカもニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルスなどは高額ですが、州や都市を選べば、広い住宅や庭のある生活を実現できる可能性があります。自動車を中心とした生活、広大な自然、温暖な気候など、イギリスとは違う暮らしを求めて移住する人もいます。
特にフロリダやテキサスなどは、気候、事業環境、州税制度などを理由に注目されることがあります。ただし、税制や生活費は州によって大きく異なります。
社会的な息苦しさから離れたい
一部のイギリス人は、イギリス社会には階級意識、過度な遠慮、悲観的な空気が残っていると感じています。
新しい事業や大きな夢について話すと、「現実を見たほうがよい」「目立たないほうがよい」と言われることがある一方、アメリカでは野心や成功への意欲を比較的率直に表現しやすいと考えられています。
こうした文化的な違いを「自由」と感じる人もいます。
実際には簡単に移住できない
イギリス人だからといって、自由にアメリカへ移住して働けるわけではありません。観光目的での渡航と、居住・就労は全く別の制度です。
一般的な移住経路には、アメリカ企業からの雇用、勤務先企業を通じた転勤、米国市民との結婚や家族関係、投資・事業経営などがあります。雇用を基礎とする移民ビザには複数のカテゴリーがあり、申請資格、年間発給枠、待ち時間などが設定されています。
イギリスはアメリカとの条約国であるため、条件を満たす事業投資家はE-2投資家ビザを検討できる場合があります。ただし、単にアメリカの銀行口座へ資金を移すだけではなく、実際の事業に相当額を投資し、その事業を運営する必要があります。
つまり、「自由を求めて行きたい」と思っても、ビザ、仕事、資金、家族関係などの具体的な条件がなければ、長期移住は容易ではありません。
アメリカは本当にイギリスより自由なのか
これは、何を自由と考えるかによって答えが変わります。
起業、転職、高収入、広い住宅、自己表現などを重視する人にとっては、アメリカのほうが自由に感じられるかもしれません。
一方、医療費、雇用の安定、銃犯罪、大学教育費、社会保障などを重視する人にとっては、イギリスのほうが安心して暮らせる可能性があります。英国政府も、アメリカの医療は高額であり、英国人向けの特別な医療制度はないと注意を促しています。
NHSがあるイギリスから移住した人にとって、健康保険の内容によって医療費が大きく変わるアメリカの制度は、特に大きな違いです。
また、アメリカの労働環境は州や会社によって異なり、イギリスと比べて有給休暇、病気休暇、解雇時の保護が限定的な職場もあります。高い給与の代わりに、より大きな自己責任を求められる社会ともいえます。
「アメリカンドリーム」は今も存在するのか
アメリカへ移住するイギリス人の多くが求めているのは、必ずしも国旗や政治的思想としての自由ではありません。
自分で会社を始める自由、能力に見合った収入を得る自由、広い場所で暮らす自由、過去の人間関係や階級意識から離れて人生をやり直す自由です。
しかし、アメリカへ行けば自動的に成功できるわけではありません。医療費、住宅費、移民制度、雇用の不安定さなど、イギリスではあまり意識しなかった問題に直面することもあります。
それでも、「安全だが変化の少ない生活」よりも「リスクを取って可能性を試したい」と考える人にとって、アメリカは今も魅力的な国です。
イギリス人のアメリカ移住は、イギリスから逃げる行為というより、自分が理想とする自由や成功を別の社会で探す選択なのかもしれません。










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