イギリスにおける電動自転車と電動キックボードの急成長と課題

イギリスでは近年、電動自転車(e-bike)および電動キックボード(e-scooter)の利用が都市部を中心に爆発的に増加しています。特にCOVID-19パンデミック以降の移動様式の変化がこれを後押しし、交通インフラや都市のモビリティ戦略にも影響を与えています。本記事では、イギリスにおけるe-bikeとe-scooterの普及状況、事故や火災などの安全上の課題、関連する法規制と保険制度、そして今後の安全な運用に向けた提言までを包括的に掘り下げます。


1. 爆発的に普及するe-bikeとe-scooter:新たな都市の足

パンデミックによる利用増加とその背景

2020年からのパンデミックにより、多くの人々が公共交通機関の混雑を避け、個人での移動手段を模索する中で、e-bikeやe-scooterが注目を集めました。イギリスでは、2020年にe-bikeの普及率が3.9%から5.9%に増加し、2021年にはさらに1.2%の増加が見られました。市場調査会社Mordor Intelligenceは、2025年までに24.4%まで成長する可能性を指摘しています。

ロンドンでは、米国企業Lime社が展開するe-bikeが40,000台以上導入されており、2024年には通勤時間帯における利用回数が1,600万回を超えました。これらの数字は、e-bikeおよびe-scooterが都市型通勤手段として確固たる地位を築きつつあることを示しています。

環境負荷軽減とインフラへの影響

e-bikeやe-scooterの導入は、自動車の代替手段として温室効果ガス排出削減にも貢献しており、都市の環境負荷軽減にも寄与しています。しかしその一方で、自転車道の混雑や歩道上でのトラブルなど、新たな課題も浮き彫りになっています。


2. 交通事故の増加とその背景

統計が示す事故件数の急増

イギリスでは、e-bikeおよびe-scooterに関連する交通事故が年々増加しています。2023/24年度の統計によると、これらのモビリティに関連する事故は11,266件と報告され、前年の10,168件から大きく増加しました。特にe-scooterによる事故件数は深刻で、2021年には1,352件の事故が発生し、1,434人が負傷、そのうち10人が死亡するという痛ましい結果となりました。

ヘルメット未着用と飲酒運転のリスク

事故の背景には、ヘルメットの着用率の低さ(7%)や、飲酒・薬物使用下での運転(26%)といった問題が指摘されています。これにより、事故時の致死率や重傷率が高くなる傾向があります。

また、e-bikeの重量が最大30kgに達するケースもあり、速度も高速であるため、衝突時の衝撃が自転車よりも大きく、歩行者や他の車両との事故の際に深刻な結果を招くことがあります。


3. リチウムイオンバッテリーによる火災リスク

火災件数の急増

近年では、e-bikeおよびe-scooterに搭載されているリチウムイオンバッテリーによる火災が大きな問題となっています。2022年には93件だった火災件数が、2023年には199件に倍増しました。ロンドン消防局によると、2023年だけでe-bikeに関連する火災は149件発生し、3人の命が失われました。

主な火災原因:改造バッテリーと住宅内充電

火災の主な原因は、非純正充電器の使用、バッテリーの改造、品質の低い製品の使用にあります。特に後付けで電動化されたe-bikeは火災の46%を占めており、重大なリスクとなっています。また、火災の約68%が住宅内で発生しており、避難経路を塞ぐ危険性も高まっています。


4. 法制度と規制の現状

e-bikeに関する法的条件

イギリスでは、以下の条件を満たすe-bike(正式にはEAPC:Electrically Assisted Pedal Cycle)は、通常の自転車と同様に扱われます。

  • ペダル走行が可能であること
  • モーター出力が250W以下であること
  • 時速15.5マイル(約25km)でモーターのアシストが停止すること

これらを満たすe-bikeは、運転免許や登録、MOT検査、保険加入が不要で、14歳以上であれば誰でも使用可能です。

e-scooterに関する厳格な規制

対照的に、私有のe-scooterはイギリスでは公道や公共の場所での使用が違法とされています。現在合法とされているのは、政府が認可したレンタルe-scooterに限られます。これらには以下の条件があります:

  • 使用には運転免許(仮免含む)が必要
  • 保険はレンタル事業者が提供

私有e-scooterを公道で使用した場合、罰金、免許の減点、車両の押収といった厳しい罰則の対象となります。


5. 安全性向上に向けた具体的提言

e-bikeおよびe-scooterの安全性を高めるためには、以下のような多角的な対策が求められます。

ヘルメットの着用促進

現状では法的義務はないものの、事故時の頭部損傷リスク軽減のため、着用の啓発とインセンティブ提供が必要です。

交通安全教育の強化

特に若年層や通勤者に向けた、学校や地域コミュニティでの継続的な教育が重要です。

製品品質と安全基準の向上

政府は、輸入および流通されるe-bikeやe-scooterの品質検査を強化し、非純正パーツの規制を進めるべきです。

法規制の見直しと明確化

e-scooterの法的位置づけを明確にし、将来的な私有e-scooterの合法化に向けたガイドラインを整備することも議論されています。


結論:持続可能なモビリティ社会に向けて

e-bikeやe-scooterは、都市における持続可能で環境に優しい移動手段として大きな可能性を秘めています。一方で、急速な普及により、事故や火災といった新たな社会的リスクも顕在化しています。今後は、適切な法制度の整備、安全教育、製品の品質管理といった総合的な取り組みによって、安全かつ快適なモビリティ社会の実現を目指す必要があります。

市民、自治体、企業、政府が連携し、それぞれの役割を果たすことで、イギリスはe-bikeおよびe-scooterの活用において世界的な先進国としての地位を確立する可能性を持っています。

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