「Made in UK」はどこへ?――中国製品にあふれるイギリスと、揺れる国民の意識

ロンドンの繁華街に並ぶショップから、オンライン通販の大手Amazonに至るまで、現代のイギリスでは「Made in China」の文字を見ない日はありません。衣類、家電、日用品、ガジェット、おもちゃ――そのほとんどが中国からの輸入品です。こうした状況は、もはや異常ではなく「当たり前」になっています。

かつて「産業革命の発祥地」として世界の製造業をリードしたイギリス。しかし今、その「ものづくり大国」としてのイメージは大衆の生活の中ではすっかり薄れ、「Made in UK」の製品はごく限られたジャンルでしか見かけなくなりました。一体、何がこの変化をもたらしたのでしょうか?

中国製品がイギリスを席巻する理由

中国は長年にわたり「世界の工場」として地位を確立してきました。豊富な労働力、整ったインフラ、そして規模の経済を武器に、驚くほどのスピードで製品を大量生産し、世界中に輸出しています。

イギリス企業にとっても、中国での製造は経済合理性のある選択です。特に、価格競争が激しい分野では、「安く、早く、大量に」供給できる中国製品に依存するのは避けがたい現実です。

さらに、イギリスがEUを離脱した「ブレグジット」以降、貿易のパートナーシップが再構築される中で、アジア諸国との経済関係が重視されるようになりました。関税や手続きの簡素化を背景に、中国との貿易はむしろ加速しており、日常生活のあらゆる場面に中国製品が浸透しています。

「Made in UK」はどこへ? 残されたものと失われたもの

「Made in UK」が完全に消えてしまったわけではありません。今もイギリス国内で製造されている製品は存在します。ただし、それらは高級ブランドや伝統工芸、職人技術に支えられたニッチな分野が中心です。

例えば、ノーザンプトンで作られる英国靴、サヴィル・ロウのオーダースーツ、スコッチウィスキーや高級家具――こうした製品は「英国らしさ」の象徴であり、世界中の富裕層に支持されています。しかし、これらは日常的に手に取る商品ではなく、大衆市場における「Made in UK」のプレゼンスは極めて限定的です。

このような状況に至った背景には、1970年代以降の産業構造の変化があります。製造業から金融・サービス業へのシフト、海外への工場移転、長年にわたる労働コスト上昇、さらには政治的な無策――これらの要因が絡み合い、イギリス国内のものづくりは徐々に衰退していきました。

英国民は「原産国」を気にしない?

意外なことに、多くのイギリス人は商品を購入する際に「どこで作られたか」をあまり気にしていません。むしろ、「いかに安く、便利に手に入るか」が重視される傾向にあります。

とくにAmazonなどのオンラインショッピングでは、価格やレビューを最優先にするユーザーが大半で、商品説明欄の「原産国」まで目を通す人は少数派です。

ただし、すべての人がそうではありません。近年では「ローカル経済を応援したい」「サステナビリティの観点から地元産を選びたい」という層も増えてきました。特に食品や化粧品、ファッションなど、生活の質や倫理観が問われる分野では「Made in UK」をあえて選ぶ消費者も一定数存在します。

コロナ禍が変えた価値観――「再び国産を」という声も

2020年以降のパンデミックは、グローバルなサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにしました。海外に依存していた医療用品やマスク、食品などの供給が滞ったことで、「国内で製造する重要性」が再認識されるようになったのです。

特に、国家の安全保障や公共の福祉に直結する分野では、輸入依存のリスクが現実味を帯び、多くの市民や議員が「製造業の国内回帰」を訴えるようになりました。

一部の企業は、実際に国内での生産回帰を始めています。政府も「製造業再生」を掲げ、税制優遇や設備投資の支援などの政策を打ち出しており、今後の方向性に注目が集まっています。

「Made in UK」の未来――少量高品質の新たな戦略へ

イギリスが再び「製造立国」として復活するには、多くの課題が残されていますが、まったく希望がないわけではありません。

例えば、3Dプリンティングやスマート工場などの最新テクノロジーを活用した「小規模・高品質」の製造モデルが注目を集めています。環境負荷を抑えたサステナブル素材の活用、若手職人によるリバイバルプロジェクトなど、新しい価値観に基づいた「新しい英国製」の可能性が模索されています。

また、地元コミュニティを巻き込んだクラフト系ブランドの台頭や、フェアトレード・エシカル消費を前面に出した商品は、国内外で一定の支持を得ており、こうした潮流が「Made in UK」の再興に一役買う可能性もあります。

終わりに

現代のイギリスは、中国製品にあふれるグローバル消費社会の一部でありつつも、「英国らしさ」を宿した製造業の価値を再発見しようとする動きが確かに存在しています。

「Made in UK」は、単なる過去の栄光ではありません。それは今、新たな技術と価値観を取り入れながら、再び世界に存在感を示す可能性を秘めた「未来のブランド」として、静かに息を吹き返しつつあるのです。

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