イギリスで、数年前から支給されていた奨学金や学生向け支援金について、「本来は対象外だった」として、すでに受け取って使ってしまった学生たちに対し、返金を求める動きが問題になっている。報道では、イングランドの15の大学・教育機関に関わる2万2,000人超の学生が、合計1億9,000万ポンド規模の返還を求められているとされている。背景には、週末だけのコースを大学側が誤って通常の通学扱いで申告し、Student Finance England が支給していたという構図がある。教育相も大学側のミスを厳しく批判している。
しかし、率直に言って、これは今の時代にまったく通用しない話だと思う。
そもそも、申請を受け付け、審査し、支給を認めたのは公的な仕組みの側である。学生は、承認されたからこそ、そのお金を生活費や学費、通学費、家賃、日々の暮らしのために使ってきた。そこに対して、あとから「やっぱり間違いでした。すぐ返してください」と言うのは、あまりにも無責任ではないだろうか。
しかも、そのミスの原因が学生本人の悪質な不正ではなく、制度を運用する側、あるいは教育機関側の誤った処理にあるのなら、なおさら話は違う。受け取った時点で正式に認められていた支援金を、生活のために使ってしまった学生に、突然大金の返還義務を突きつけるなど、常識的に考えて酷すぎる。
大学や政府機関のミスには大した責任追及が見えない一方で、最も立場の弱い学生にだけ現実的でない負担を押しつける。この構図が何よりおかしい。制度を間違って動かした側がほぼおとがめなしで、信じて受け取った若者が人生を揺さぶられる。そんなやり方が社会的に正しいとはとても思えない。
今のイギリスは景気も良いとは言えず、若者を取り巻く状況は厳しい。物価高、家賃高騰、生活費の上昇、そして就職難。努力しても仕事にありつけない若者も少なくない。そうした中で、学生時代に支給されたお金を「今すぐ返せ」と迫るのは、現実をまるで見ていない発想だ。
学生の多くは、余ったお金を贅沢のために使ったわけではない。生活のために使ったのである。学ぶために必要だったから使ったのである。そこを無視して返還だけを迫るのは、「制度のミスの穴埋めを、生活に余裕のない若者にさせる」ということにほかならない。
しかも、こうした対応は、単なる金銭問題では終わらない。将来への不安、精神的な負担、学業の断念、生活の破綻にまでつながりかねない。実際に今回の件でも、影響を受けた学生たちからは、生活や学業の継続が危うくなるとの声が出ている。
本来であれば、まず責任を問われるべきは、誤った処理を通してしまった制度運営側であり、誤申告をした教育機関側である。学生に返還を求めるにしても、少なくとも「即刻返金」などという乱暴なやり方ではなく、十分な説明と救済措置、長期の猶予、減額、あるいは返還免除まで含めて検討するのが筋だろう。
実際、過去には看護学生の過払い問題で、政府が「不当に不利益を受けないようにする」として救済策を打ち出した例もある。つまり、制度上のミスで学生だけに過酷な負担を負わせるのはおかしい、という認識自体は、政府にも本来あるはずなのだ。
それなのに今回、承認した側の責任を曖昧にしたまま、すでに使ってしまった学生に即返金を求めるのであれば、それは制度の失敗を弱い立場の若者に押しつけているだけである。そんなものは公正でもなければ、教育を支える国家の姿勢としても失格だ。
若者に「学べ」「挑戦しろ」「未来に投資しろ」と言いながら、制度のミスが起きた瞬間に「でもお金は今すぐ返せ」と迫る。これでは誰が安心して学びに向かえるのか。政府や関係機関が本当に守るべきなのは、制度の体面ではなく、そこで生きている学生たちの生活と将来のはずだ。
今の時代、こうしたやり方は通用しない。
通用させてはいけない。
ミスをした側が責任を取り、学生にしわ寄せを押しつけない――それが最低限の常識であり、まともな社会の姿だと思う。










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