イギリスにもカルト教団はあるのか?実際の事件が示す「信仰」と「支配」の境界

イギリスにも、一般に「カルト」と呼ばれる集団はある。宗教団体での虐待が公的調査で取り上げられ、政治思想を掲げた共同体の指導者が重大犯罪で有罪になった事件も起きている。さらに、ライフコーチングを入口とする団体にも、支配や威圧をめぐる批判が向けられてきた。iicsa.org.uk

国教会や歴史ある大聖堂から、英国の宗教には落ち着いた印象を持つ人もいるだろう。しかし、この国でも、救いや仲間を求めて加わった場所で、自由を奪われた人たちがいる。

最初に押さえておきたいのは、「カルト」という言葉の扱いである。宗教に関する情報を提供する英国のInformは、この言葉が非難のラベルとして使われやすいことから、個々の団体について、何を信じ、何をしているのかを具体的に説明する姿勢を取っている。少数派であることや、独特の教えを持つことだけで危険性は判断できない。inform

見極める基準は、その集団の中で、一人ひとりの自由と尊厳が守られているかどうかである。

その問題を示す英国の事例が、「Jesus Army」の名でも知られたJesus Fellowship Churchだ。共同生活を行っていたこの団体について、児童性的虐待に関する独立調査委員会IICSAは、元メンバーの証言を取り上げている。外部から隔てられた生活の中で子どもたちへの虐待があり、脱退しようとする人に、大勢で叱責したり、恐怖を与えたりする対応があったと報告された。iicsa.org.uk

教会は2019年5月に閉鎖した。その後、清算を担うJesus Fellowship Community Trustは、団体内で起きた虐待について謝罪している。2024年公表の救済制度の最終報告では、601人から計890件の申請があったとされた。この制度は虐待被害に加え、共同生活上の被害や雇用・年金などに関する請求も扱っていた。Jesus Fellowship Community Trust

ここから考えるべきなのは、共同生活に伴う依存の深さだ。住む場所、働く場所、親しい人間関係が同じ共同体に集中すれば、離れるときには生活の複数の土台を同時に失うことになる。建物の出口が開いていても、その先でどう暮らせばよいか分からなければ、脱退は難しい。

ロンドンでは、政治思想を掲げた小さな共同体でも深刻な事件が起きた。南ロンドンの毛沢東主義の集団を率いていたAravindan Balakrishnanは、信奉者への強姦や、娘の不法監禁などで有罪となり、2016年1月に禁錮23年を言い渡された。娘は30歳まで外部との接触を極端に制限され、学校にも通えなかったと報じられている。ITV News

この事件は、政治的な理想を掲げる集団でも、指導者の権威が絶対化され、人の生活全体を支配する状況が生まれうることを示している。

もっと日常に近い入口として、自己啓発や「人生を変えるための支援」もある。ライフコーチングを提供していたLighthouse International Groupは、BBC制作の『A Very British Cult』で取り上げられた。番組は、団体内の統制や威圧などを取材対象とした。一方、団体側は番組の内容に強く反論し、カルトという評価を否定している。ABC listen

これとは別に確認できるのが、事業体に対する裁判所の判断だ。英国の倒産当局(Insolvency Service)の発表によると、高等法院は2023年3月、Lighthouse International Group Holdings Trading LLPに公益上の理由による強制清算命令を出した。会計資料の未提出や、虚偽または誤解を招く決算書などが問題とされた。これは会計や調査への協力をめぐる判断であり、裁判所が「カルト」という法的認定を行ったと説明することはできない。Official Press Release

宗教、政治、自己啓発。これらの事例を考えるとき、参加者が自分で判断する余地を失っていないか、という共通の視点が役に立つ。

その見方は、英国の既成宗教の内部でも認識されている。イングランド国教会の保護指針は、宗教的な文脈で組織的に人を従わせ、統制する行為を「spiritual abuse」と説明し、心理的・感情的虐待として扱っている。聖典や宗教上の地位を使って従わせること、恐怖を利用することなどが含まれる。The Church of England

同指針に挙げられた特徴を踏まえると、特に注意したいのは次のような状態だ。

  • 指導者への服従が、神や教えへの忠実さと結び付けられる。
  • 質問や異論を口にすると、非難や処罰を受ける。
  • 私生活の細部まで報告させられ、個人で決める余地が狭まる。
  • 時間や奉仕への要求が増え、断ることが難しくなる。
  • 従わない人が孤立させられたり、共同体から排除されたりする。The Church of England

親切な人がいることや、参加して気持ちが楽になることと、こうした問題は両立しうる。同じ国教会の指針も、虐待的な対応の前後に肯定的な体験が長く続き、被害を受けた人が自分の判断を疑う場合があると指摘している。The Church of England

「ここで救われた」という経験があるほど、その場所から受けた傷を認めることは難しい。支援を考えるときには、その人が得たものと、失いつつある自由の両方に目を向ける必要がある。

制度の面でも課題は残る。2026年2月の英国議会答弁では、政府は、イングランドとウェールズの強制的・支配的行動に関する犯罪の枠組みについて、加害者と被害者が親密な関係や家族関係などで結び付いている状況を対象に設計したと説明した。その時点では、カルトなどを含む、より広い関係へ対象を拡大する考えはないと回答している。UK Parliament

そのため、指導者とメンバーという関係だけでは、この犯罪の対象に自動的に入るわけではない。ただし、宗教団体も一般の法律に従う必要がある。IICSAも、信教の自由によって子どもへの虐待が正当化されたり、保護のための行政の介入が妨げられたりすることはないと明記している。iicsa.org.uk

宗教として法的に扱われることについても、意味を正確に理解したい。2013年、英国最高裁は、サイエントロジーのロンドンの施設を、婚姻を行うための登録につながる「宗教的礼拝のための集会場所」として扱うべきだと判断した。この判決が扱ったのは宗教と礼拝場所の法的な範囲であり、団体の活動全般の安全性を審査したものではない。supremecourt.uk

身近な人の関わる団体に不安がある場合、Informは、正確で偏りの少ない情報を集め、本人との連絡を保ち、話を聞くことを勧めている。相手の経験を一方的に否定する対応は、防御的な態度を強めるおそれがあるという。宗教から離れた人への支援としては、Humanists UKの「Faith to Faithless」も活動している。inform

イギリスにもカルトの問題はある。そして実際の事件が問いかけているのは、参加した人が、疑問を持ち、要求を断り、関係を終わらせる自由を持っているかということだ。

人を支えるはずの場所で、本人が自分の人生を決められなくなる。その変化を見逃さないためには、看板や理念だけでなく、日々の具体的な振る舞いを見ていく必要がある。信じる自由を守る社会には、信じるのをやめる自由も欠かせない。

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA