
はじめに
近年、「FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立と早期リタイア)」というライフスタイルが世界的に注目を集めています。働くことを前提とせず、投資などの不労所得で生活を成り立たせるという選択肢は、特に欧米諸国で広がりを見せています。イギリスにおいても例外ではなく、多くの人が投資を通じて将来の安定や早期リタイアを目指しています。
しかし、実際にイギリス国内で投資だけで生計を立てている人はどれほど存在するのでしょうか?そして、投資家として成功するためにはどのような知識や資産、戦略が必要なのでしょうか?本記事では、最新の統計や専門的知見をもとに、イギリスにおける「投資生活」の実態と可能性を徹底的に分析します。
1. 投資のみで生活している人はどれくらいいるのか?
正確な統計は存在しないが、ヒントはある
イギリスにおいて、「投資収入のみ」で生活している人の正確な数を示す統計は存在しません。これは、収入源の特定や税務申告における分類の曖昧さが要因とされています。しかし、間接的な統計や調査データを通じて、ある程度の傾向を読み取ることは可能です。
2025年現在、イギリスの成人の54%、約2,900万人が何らかの形で投資活動に参加していると報告されています。これは株式、債券、不動産、投資信託、さらには暗号資産(仮想通貨)など、様々な資産にわたっています。ただし、これらの人々すべてが投資だけで生活しているわけではなく、多くの人は給与所得や年金、不動産収入など、複数の収入源を併用しています。
富裕層の中にこそ「投資生活者」が存在する
イギリスの富の分布を見てみると、最も裕福な10%の個人が、国全体の富の約半分を保有しているとされています。このような上位層の人々の中には、資産からの配当・利子収入、不動産収益などの不労所得で生活している人が多く含まれている可能性があります。
特にロンドンやサウスイースト地方には、長期的に資産を運用し、働かずに暮らしている人々が一定数存在しています。こうした人々は、高度な資産運用の知識と戦略を持ち、しばしばファイナンシャル・アドバイザーや資産管理会社のサポートを受けています。
2. 投資を始めることは本当に簡単なのか?
プラットフォームの普及で誰でもスタート可能に
かつては、株式投資といえば富裕層や専門家のためのものでしたが、インターネットとスマートフォンの普及により、そのハードルは大きく下がりました。現在では、バークレイズ、HSBC、ナットウエストなどの大手銀行や、Hargreaves Lansdown、Freetrade、eToro、Revolutといったオンラインプラットフォームを通じて、誰でも簡単に投資を始めることができます。
これらのプラットフォームは初心者向けのガイド、リスク診断ツール、ポートフォリオシミュレーターなどを提供しており、教育的な側面も強化されています。
しかし、成功は「簡単」ではない
投資を始めること自体は容易でも、それを通じて安定的な収入を得続けるには相応の知識と戦略が求められます。特に以下の4つの要素は、成功するために欠かせないとされています:
1. 知識と教育
投資の基本的な概念、例えば「複利効果」「分散投資」「インフレ率との関係」「PERやPBRといった指標の読み方」などを理解しておく必要があります。また、経済指標(GDP成長率、金利動向、雇用統計など)の読み解き方も重要です。
2. リスク許容度の評価
人それぞれの年齢、家族構成、資産背景、収入状況によってリスクの取り方は異なります。ハイリスク・ハイリターンな資産に全力投資するのは避け、資産配分(アセットアロケーション)を戦略的に考える必要があります。
3. 分散投資
「卵を一つのカゴに盛るな」という格言がある通り、株式だけに偏った投資は非常に危険です。地域、資産クラス(株式、債券、不動産、コモディティなど)、業種などを広く分散させることがリスク管理の基本です。
4. 長期的視点
短期的なニュースや価格変動に振り回されるのではなく、5年、10年というスパンでの成長を目指す姿勢が求められます。市場は一時的に下落しても、長期的には上昇トレンドを描くことが多いため、忍耐力も重要です。
3. 税制優遇措置の活用とその戦略
ISA(Individual Savings Account)の活用
イギリスでは、ISAという個人貯蓄口座制度が存在し、年間の非課税投資枠(2025年時点で£20,000)が設けられています。この枠内での投資から得た利益(配当・キャピタルゲインなど)は非課税となるため、特に中長期の投資戦略を取る人にとって非常に有利です。
また、ISAには複数の種類があり、例えば:
- Stocks & Shares ISA:株式や投資信託などに投資可能
- Cash ISA:普通預金のような形で金利収入が得られる
- Lifetime ISA(LISA):住宅購入や退職後の生活費用に向けた長期投資用
自営業・フリーランス向けの年金制度
個人事業主やフリーランスの投資家は、Self-Invested Personal Pension(SIPP)などを利用することで、年金として積み立てながら税控除の恩恵を受けることが可能です。
4. 投資生活を送るための現実的な目標と資産規模
必要資産の目安は?
投資収入のみで生活するためには、どれほどの資産が必要なのでしょうか?これは「4%ルール」という考え方が参考になります。
4%ルールとは、年間支出の25倍の資産を保有していれば、その資産から年間4%を取り崩しても30年以上生活が可能という理論です。例えば年間£30,000が必要であれば、約£750,000の投資資産が必要となります。
もちろん、これはあくまで理論値であり、インフレや市場環境の変化によって調整が必要です。
生活コストの最適化も重要
ロンドンのような都市部では生活費が高額になる一方、北部地方やスコットランド、ウェールズなどではコストを大幅に抑えることが可能です。実際、FIREムーブメントを実践する人の多くは、都市部を離れて生活費を最適化しています。
5. 投資生活の現実的な課題とリスク
投資で生計を立てるというと、華やかで自由な生活を想像しがちですが、そこには数々のリスクや課題が存在します。
- 市場のボラティリティ:リーマンショックやパンデミックのような不測の事態で資産が急減することもある
- メンタルの安定性:収入が不安定になりやすく、心理的な負担が大きい
- 税制・法制度の変化:将来的な税制改正などで投資収益に課税されるリスク
結論:投資生活は夢ではないが「準備」がすべて
イギリスにおける投資のみの生活は、確かに実現可能な選択肢ではありますが、それは計画性・知識・資産という3つの要素が揃ってこそ成立するものです。
投資を通じて経済的自由を得るには、「簡単に儲かる」という幻想を捨て、地道な学習と経験の積み重ねが必要です。そして、その努力こそが、自由で豊かなライフスタイルへとつながっていくのです。
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