冬でも半袖で歩いている人を見かけたり、気温が10℃を下回っていても平気な顔でパブの外でビールを飲んでいたり。
英国に住んでいると、「イギリス人は寒さに強い」と感じる場面は少なくありません。
ところが、そのイギリス人が暑さには驚くほど弱い――。
もちろん個人差があるので「イギリス人は全員暑さに弱い」という話ではありません。しかし2026年の夏、その言葉を単なるイメージでは片付けられない、衝撃的な数字が発表されました。
5月・6月だけで猛暑関連死「2,877人」
英国健康安全保障庁(UKHSA)が2026年7月30日に発表した暫定報告によると、2026年5月と6月にイングランドで発生した猛暑に関連して、推計2,877人が死亡したとされています。
内訳は、
5月24日~27日の猛暑:753人
6月21日~28日の猛暑:2,124人
です。
2025年夏の猛暑関連死は1,504人だったため、2026年は5月と6月だけですでに前年夏全体の約2倍に達しています。
さらに驚くべきことがあります。
この2,877人という数字には、7月5日から17日まで続いた長期間の猛暑が含まれていません。UKHSA自身も、2026年夏の最終的な死亡者数はこの数字を大幅に上回る可能性があるとしています。最終的な2026年の統計は2027年初めに発表される予定です。
そして8月に入ってからも英国では猛暑が続き、2026年はすでに5回目の熱波に見舞われています。
つまり「今年すでに2,000人を超えた」というより、正確には、5月と6月だけですでに2,877人なのです。
「暑さで死亡」とは、熱中症だけではない
ここで誤解してはいけないのが、「2,877人全員が熱中症で倒れて死亡した」という意味ではないことです。
UKHSAが発表しているのは、猛暑期間中の死亡者数を通常時と比較するなどして推計した「heat-associated deaths(暑さに関連する死亡)」です。数字は暫定値であり、今後修正される可能性があります。
暑さは熱中症だけでなく、心臓発作、脳卒中、呼吸器疾患などのリスクを高めます。特に高齢者、乳幼児、持病のある人は体温調節が難しく、暑さの影響を受けやすいとUKHSAは警告しています。
つまり猛暑そのものが直接の死因として記録されなくても、暑さによって心臓や肺、腎臓などに大きな負担がかかり、もともと持っていた病気が悪化して亡くなるケースがあるということです。
なぜ英国は暑さにこれほど弱いのか
英国はもともと「暑い国」ではありません。
そのため住宅や社会インフラも、長い間「どうやって夏を涼しく過ごすか」より、**「どうやって冬の寒さから身を守るか」**を中心に発達してきました。
英国の家に住んだ経験がある人なら分かると思いますが、断熱性が高く、熱を逃がしにくい住宅も少なくありません。冬には非常にありがたい構造ですが、真夏になると逆効果になることがあります。
昼間に日差しを受けた建物に熱が蓄積し、夕方になって外の気温が下がっても、室内だけ30℃近いということも珍しくありません。
そして英国では家庭用エアコンが日本ほど一般的ではありません。
英国のClimate Change Committee(気候変動委員会)は、地球温暖化が2℃に達する将来の気候では、英国の住宅の約22%がエアコンなどの「積極的な冷房」を必要とする可能性があると指摘しています。
つまり、英国の住宅そのものが、今後予想される暑さに十分対応できていない可能性があるのです。
日本人の「30℃」と英国の「30℃」は同じではない
日本人からすると、
「30℃くらいなら、日本の夏では普通では?」
と思うかもしれません。
確かに気温だけを比べればその通りです。
しかし重要なのは、人間だけでなく社会全体がその気温に対応できるように作られているかどうかです。
日本では多くの住宅、電車、店舗、オフィス、病院などに冷房があります。暑くなればエアコンをつける、という生活習慣も定着しています。
一方英国では、住宅だけでなく一部の学校、病院、公共施設などでも十分な冷房設備が整っていないケースがあります。
さらに、普段それほど高温にならない気候に暮らしてきた人にとって、突然の30℃台後半は身体への負担が非常に大きくなります。
UKHSAによると、英国では気温が25℃を超えるあたりから暑さに関連した超過死亡が発生し始め、その後気温が上昇するほどリスクが急激に高まります。
日本人の感覚で「まだ25℃でしょう」と考えてはいけない理由がここにあります。
2022年の記録を超える可能性も
UKHSAの過去の統計では、2022年の夏に記録された猛暑関連死2,985人がこれまでで最も多い年間推計でした。
ところが2026年は、5月と6月だけですでに2,877人。
2022年の記録との差はわずか108人です。しかも7月の猛暑はまだ集計に入っていません。
2026年夏の最終的な数字が過去最高を更新する可能性は、かなり高いと考えられます。
「英国の夏は涼しい」は、もう昔の常識になるかもしれない
少し前まで英国では、
「夏でも朝晩は涼しい」
「30℃を超える日は年間に数えるほど」
「エアコンなんて必要ない」
という感覚が一般的でした。
しかし、その前提が急速に崩れ始めています。
2026年夏の2,877人という数字が示しているのは、単に「今年は暑かった」という話ではありません。
英国の住宅、医療、介護、学校、交通、そして人々の生活習慣そのものが、新しい暑さに追いついていないという問題です。
寒い日に半袖で歩けるからといって、暑さにも強いとは限りません。
むしろ、寒さを前提として作られてきた英国だからこそ、現在進行している夏の高温化に対して非常に脆弱なのかもしれません。
そして今年の数字はまだ「途中経過」です。
2026年8月15日現在、英国の夏はまだ終わっていません。
「英国の夏は涼しい」――そんな常識そのものを見直す時代に入ったのかもしれません。










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