数百社に履歴書を送っても面接にすら進めない――英国の就職市場で何が起きているのか

英国で就職活動をしている人たちの間で、最近よく聞かれるのが「100社以上にCVを送ったのに、面接にすら呼ばれない」「数百社に応募しても、自動返信か無視ばかり」という声だ。これは決して一部の人の大げさな話ではない。特に新卒、若年層、キャリアチェンジ希望者、英国での職歴が少ない外国人、そしてロンドンなど競争の激しい都市でオフィス職を探している人にとって、今の英国の就職活動は非常に厳しいものになっている。

以前であれば、「履歴書の書き方が悪い」「経験が足りない」「英語力が足りない」といった個人の問題として片付けられることも多かった。しかし、現在の英国では、応募者個人の努力だけでは説明できない構造的な問題が起きている。求人が減り、応募者が増え、企業は採用に慎重になり、AIや採用システムによって人間の目に届く前に落とされるケースも増えている。

つまり、今の英国の就職難は「仕事がない」のではなく、「仕事にたどり着くまでの入口が極端に狭くなっている」と言った方が正確だ。

求人そのものが減っている

まず大きな問題は、英国の求人件数そのものが減っていることだ。英国国家統計局、ONSの2026年6月発表によると、2026年3〜5月の英国の求人件数は70万7,000件となり、前四半期から1万9,000件減少した。これは2021年2〜4月以来の低水準であり、コロナ前の2020年1〜3月と比べても10.4%低い水準にある。さらに、2026年2〜4月時点では、1つの求人に対して失業者が2.5人いる計算になっている。

この数字が意味するのは単純だ。応募者が努力していないのではなく、そもそも市場に出ている仕事の数が減っている。しかも、求人が減っているのは一部の業界だけではない。ONSによると、2026年3〜5月には18業種中10業種で求人が減少し、特に専門・科学・技術サービス、不動産、芸術・娯楽、宿泊・飲食などで減少が目立っている。

仕事を探している側から見ると、IndeedやLinkedInには多くの求人が出ているように見える。しかし実際には、企業が本気で採用するポジションは以前より少なくなっている。求人広告の数と、実際に採用される人数は必ずしも一致しない。ここに、求職者が感じる「応募しているのに何も起きない」という違和感がある。

1つの求人に応募者が殺到している

次に深刻なのが、応募者数の爆発的な増加だ。Institute of Student Employers、ISEによると、2025年の英国の新卒向け求人では、1つのポジションに平均140件の応募が集まっている。これは前年比14%増で、ISEが1991年にデータ収集を始めて以来、歴史的に高い競争水準だ。20年前は1つの新卒求人に平均38件の応募だったため、競争は大きく激化している。

業界によってはさらに厳しい。ISEのデータでは、小売、FMCG、観光関連では1つの新卒ポジションに平均290件、ヘルスケア・製薬関連では220件の応募が集まっている。つまり、応募者が「自分だけが落ちている」と感じていても、企業側では1つの椅子を100人、200人、場合によっては300人近くが争っている状態なのだ。

この状況では、どれだけ普通に良いCVを書いても、面接に呼ばれないことが起きる。採用担当者は100人以上の応募者全員を丁寧に読むことはできない。最初の段階で、経験年数、キーワード、学歴、職歴、資格、ビザの状態、勤務地、希望給与、過去の業界経験などで一気にふるいにかける。結果として、多くの応募者は「能力を評価される前」に落とされる。

若者と新卒が特に不利になっている

現在の英国の就職難で最も影響を受けているのは、若者や新卒だ。Reutersによると、2026年4月時点で英国の16〜24歳の失業率は16.2%に達しており、これは2014年後半以来の高水準とされている。

若者が不利になる理由は明確だ。企業は今、採用に失敗したくない。人を雇うには給与だけでなく、雇用主負担のNational Insurance、年金、研修、休暇、管理コストがかかる。採用してから「やはり合わなかった」となれば、企業にとっては時間もお金も失うことになる。そのため、企業は未経験者を育てるよりも、すでに同じような仕事をした経験がある人、すぐに働ける人、説明しなくても動ける人を選びやすくなる。

Guardianの記事でも、英国企業は人件費上昇や利益率の圧迫によって、若者を雇うことに慎重になっており、経験が少ない人、資格が少ない人、CVに空白期間がある人は後回しにされやすいと指摘されている。特に中小企業は「人を育てる余裕」がなくなり、若者よりも経験者を選ぶ傾向が強まっている。

これは若者にとって非常に理不尽な状況だ。経験がないから仕事に就けない。しかし仕事に就けないから経験が積めない。この悪循環が英国で強まっている。

企業が採用を怖がっている

なぜ企業はこれほど採用に慎重なのか。理由の一つは、雇用コストの上昇だ。英国では2025年4月から雇用主のNational Insurance負担が15%に上がり、雇用主がNIを支払い始める基準額も年間5,000ポンドに引き下げられた。つまり、企業にとって従業員を雇うコストが上がっている。

さらに、2026年4月から21歳以上のNational Living Wageは時給12.71ポンドになった。18〜20歳でも時給10.85ポンド、見習い・18歳未満でも時給8ポンドである。これは働く側にとっては重要な保護だが、企業側から見ると、特に小売、飲食、ホテル、介護、清掃、倉庫など人件費比率の高い業界では負担が重くなる。

企業は「人手が足りない」と言いながらも、「今、本当に人を増やして大丈夫か」と考えている。売上が伸びる保証がない、家賃や光熱費も高い、税金も重い、消費者の財布も固い。こうした状況では、新しい人を採用すること自体がリスクになる。

その結果、企業は求人を出しても、途中で採用を止める。良い人がいれば採るが、無理には採らない。面接を始めても、最終的に「今回は採用を見送る」となる。求職者から見ると「求人が出ていたのに、なぜ誰も採らないのか」となるが、企業側では採用の優先順位が下がっていることがある。

面接に進めない最大の理由は「悪いCV」ではなく「読まれていないCV」

多くの求職者は、面接に呼ばれないと「自分のCVが悪いのではないか」と考える。もちろん、CVの書き方は重要だ。しかし今の英国市場では、それ以前の問題として、CVが人間に読まれていない可能性がある。

応募者が多すぎるため、企業は採用管理システム、キーワード検索、スクリーニング質問、自動評価、録画面接などを使って候補者を絞り込む。採用担当者が最初から全員のCVを読む時代ではない。特に大企業、人気企業、ロンドンのオフィス職、新卒プログラムでは、最初の段階で自動的に落とされる応募者が大量に出る。

ここで問題になるのが、CVの「中身」だけでなく「機械に読まれる形」になっているかどうかだ。職務内容に合ったキーワードがない、職歴の書き方が曖昧、数字で成果を示していない、デザイン重視で読み取りにくい、仕事内容とCVの表現がずれている。このような場合、実力があってもスクリーニングの段階で落ちる。

採用は必ずしも「一番優秀な人」を選ぶ作業ではない。実際には、「短時間で安全そうに見える人」を選ぶ作業になっている。ここが求職者にとって非常に厳しい点だ。

AIによる大量応募が、逆に応募者を埋もれさせている

近年は、求職者側もAIを使ってCVやカバーレターを作るようになった。これは悪いことではない。英語に自信がない人や、職務経歴を整理したい人にとってAIは有効な道具だ。しかし、AIによって誰でも短時間で大量に応募できるようになった結果、採用市場には似たようなCVやカバーレターが大量に流れ込むようになった。

企業側から見ると、きれいな英語で書かれているが中身が薄い応募書類、どの会社にも使い回しているような文章、実体験が見えない自己PRが増えている。こうなると、採用担当者はますます慎重になる。「この人は本当にこの仕事を理解しているのか」「本当にこの経験があるのか」「AIで作っただけではないのか」と疑うようになる。

AIは応募者を助ける一方で、応募数を爆発的に増やし、競争を激化させている。結果として、本当にその仕事に合っている人まで、AIで作られた大量応募の中に埋もれてしまう。今の就職活動では、「数を打てば当たる」という戦略が以前ほど通用しなくなっている。

“Ghost Jobs”という見えない壁

もう一つ、求職者を疲弊させているのが、いわゆる“Ghost Jobs”だ。これは、企業が実際にはすぐに採用する予定がないにもかかわらず、求人広告を出し続けるケースを指す。理由はさまざまだ。将来のために候補者リストを作りたい、会社が成長しているように見せたい、良い人がいれば採用したいが急いではいない、すでに内部候補者がいるが形式的に外部募集している、などである。

ある研究では、Glassdoorなどのデータを使い、最大で21%の求人広告が“ghost jobs”である可能性があると指摘している。これは米国中心の分析も含むため英国だけにそのまま当てはめるべきではないが、求人広告が必ずしも「今すぐ誰かを採る本物の空席」を意味しないという問題は、求職者にとって重要だ。

求職者は「求人があるから応募する」。しかし実際には、その求人は古いまま残っているだけかもしれない。採用予算がまだ承認されていないかもしれない。すでに社内候補者で決まっているかもしれない。企業が市場調査のように候補者を集めているだけかもしれない。

こうした求人に応募しても、面接に進まないのは当然だ。応募者の能力の問題ではなく、最初から面接に進む道がほとんど存在していないからである。

英国での職歴がない人はさらに不利

英国で働いた経験がない人にとって、状況はさらに厳しい。英国の採用では、実務経験が非常に重視される。日本のように「未経験でも入社後に育てる」という文化は、英国にも一部にはあるが、全体としては弱い。多くの企業は、すぐに仕事を任せられる人を探している。

そのため、海外で十分な経験があっても、英国での職歴がないと不利になることがある。理由は能力ではなく、企業側のリスク判断だ。英国の職場文化に慣れているか、英語で顧客対応ができるか、英国の法律や業界ルールを理解しているか、チームで問題なく働けるか。採用担当者は、こうした点を短いCVだけで判断しようとする。

特にビザの問題がある場合、企業はさらに慎重になる。スポンサーライセンスが必要な職種や企業でなければ、応募段階で落とされることもある。たとえ応募者に能力があっても、企業が「手続きが大変そう」「リスクがありそう」と感じれば、面接前で終わってしまう。

これもまた、本人の努力だけではどうにもならない壁である。

“Entry level”なのに経験者が求められる矛盾

英国の求人広告を見ていると、“entry level”や“junior”と書かれているにもかかわらず、実際には1〜3年の経験、特定のソフトウェア経験、業界知識、顧客対応経験、プロジェクト経験などが求められていることが多い。

これは求職者から見ると矛盾している。未経験者向けのはずなのに、経験がないと落とされる。しかし企業側から見ると、“entry level”は「その会社の中では下のポジション」という意味であり、「完全未経験歓迎」という意味ではないことが多い。

さらに問題なのは、経験者が下位ポジションにも応募してくることだ。景気が悪くなると、失業中の経験者や転職希望者が、本来なら新卒や若者向けだった職種にも応募する。すると企業は、未経験者よりも経験者を選ぶ。結果として、若者やキャリアチェンジ希望者は、本来入門口であるはずの仕事からも押し出される。

採用担当者も疲弊している

求職者だけでなく、採用担当者も疲弊している。1つの求人に100件以上の応募が届き、その中には本当に適した人もいれば、明らかに条件を満たしていない人もいる。AIで作られたような似た文章も多い。採用担当者は短時間で大量の応募を処理しなければならない。

そのため、少しでも不安要素があるCVは落とされやすい。職歴に空白がある。転職回数が多い。職務内容が曖昧。勤務地が遠い。希望給与が高そう。英語力が分かりにくい。応募理由が一般的すぎる。こうした小さな要素が、面接に呼ばれない理由になる。

求職者は「自分をちゃんと見てほしい」と思う。しかし採用側は「大量の中から短時間で落とす理由を探している」ことが多い。これは冷たいようだが、現在の採用現場の現実である。

面接に呼ばれない人が増える本当の理由

数百社に応募しても面接に進めない理由は、一つではない。複数の要因が重なっている。

英国全体の求人件数が減っている。1つの求人に応募者が殺到している。企業は人件費上昇で採用に慎重になっている。若者や未経験者は「育てる対象」ではなく「リスク」と見られやすくなっている。AIによる大量応募で応募書類が埋もれている。採用システムによって人間に読まれる前に落とされる。求人広告の中には、実際にはすぐ採用する気がないものもある。英国での職歴がない人やビザの問題がある人は、さらに不利になる。

つまり、今の英国では「応募すれば誰かが見てくれる」という前提が崩れている。多くのCVは、誰かにじっくり読まれる前に消えている。多くの応募者は、自分の能力を示す機会である面接にたどり着く前に、システム上、または採用側のリスク判断によって落とされている。

では、どうすればよいのか

厳しい現実ではあるが、ただ数百社に同じCVを送り続けるだけでは、状況は改善しにくい。今の英国市場では、応募数よりも「通過率」を上げる工夫が必要になる。

まず、CVは求人ごとに調整する必要がある。同じCVをすべての会社に送るのではなく、求人広告に出ているキーワード、求められるスキル、具体的な業務内容に合わせて書き換えるべきだ。特に英国では、仕事内容に対して自分が何をしたか、どのような成果を出したかを具体的に示すことが重要になる。

次に、経験を数字で示すことが大切だ。「customer service experience」だけでは弱い。「1日平均30件の問い合わせ対応」「売上管理」「予約調整」「クレーム対応」「チーム5人のシフト管理」など、採用担当者が一目で分かる形にする必要がある。

また、求人サイトだけに頼らないことも重要だ。LinkedInで採用担当者に直接連絡する、知人紹介を使う、業界イベントに参加する、会社のウェブサイトから直接応募する、派遣や短期契約から入る、ボランティアやインターンで英国経験を作る。こうしたルートの方が、単なるオンライン応募よりも人間の目に届きやすい。

さらに、職種名の幅を広げることも必要だ。例えば、事務職を探す場合でも、“administrator”だけでなく、“office assistant”、“coordinator”、“customer support”、“operations assistant”、“property administrator”、“sales support”など、近い職種まで広げることで可能性は増える。

結論:英国の就職難は個人の失敗ではなく、入口が狭くなった社会問題

数百社に履歴書を送っても面接に進めない人は、自分だけが失敗していると思う必要はない。現在の英国の就職市場は、求人減少、応募者過多、企業の採用慎重化、雇用コスト上昇、AI応募、採用システム、若者向け入口の縮小が重なった、非常に厳しい市場になっている。

もちろん、CVの改善、英語力、経験の見せ方、応募戦略は重要だ。しかし、それだけで全てが解決するわけではない。今の英国では、仕事を得る以前に、面接へ進むための競争がすでに激しすぎる。

就職活動で最もつらいのは、不採用そのものではなく、理由も分からず無視され続けることだ。だが、その沈黙の裏側には、応募者一人ひとりの能力不足ではなく、英国の労働市場全体の変化がある。

今の英国では、ただCVを送るだけでは足りない。企業に「この人はすぐに働ける」「リスクが低い」「この仕事に合っている」と一瞬で伝える必要がある。残酷なことに、現在の就職市場では、優秀であることだけでは不十分だ。採用システムを通過し、採用担当者の短い注意をつかみ、企業側の不安を取り除ける人だけが、ようやく面接の入口に立てる時代になっている。

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